実名・顔出しで「社員の層の厚さ」をアピールする「電通人語」

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   会社員が勤務先と実名を出して、ネットに書き込みすることは容易ではない。個人的な意見が思わぬ形で会社の見解と混同されて、取引先にまで迷惑をかけるリスクもある。このため、最初から社員のSNS利用を制限している大企業も少なくない。

   しかし、このような理由で高い専門性を有する大手企業の会社員が、ネット上での情報発信を制限されているのは残念なことだ。そんな中、電通が社員の顔写真と実名を出し、コラムを掲載するサイトを1月10日に立ち上げている。

初回には「86世代の女性社員」も登場

社員が実名・顔出しで登場する「電通人語」
社員が実名・顔出しで登場する「電通人語」

   新サイトの名前は「Dentsu-jinGo!~電通人語~」。自社サイト内に設けられたコーナーで、企画・運営をコーポレート・コミュニケーション局が担当する。同局企画業務部の小川達也部長は開設の経緯について、

「従来は自社PRを目的とした書籍を出していたが、年に何冊も作ることができない。制作コストや時間を抑えられるウェブサイトを積極的に使うことにした」

と説明する。新卒採用向けに限定したものではなく、ゆくゆくは「旬な人物や社員を紹介するメディア」にしたいそうだ。

   開設時に登場した社員は3人。若者研究のプロジェクトに携わるビジネス・クリエーション局の西井美保子氏は「近頃のワカモンは。」という連載の中で、「ワカモンたちが行動するスイッチになっているのは、『何』をするかよりも、『誰』とするかに変化してきている」と分析。1986年生まれの若者視点を活かしている。

   電通ネットワーク・佐々木康晴氏の「デジタルときどきグローバル」は、ニューヨークに住みながら東京のオフィスへも出勤する「電通でいちばん通勤に時間がかかる男」のハードな日常を描いている。会社が彼に託した「日本のすてきなデジタルクリエーティブを、世界に輸出する」というミッションを、うらやましいと思う人もいるだろう。

   このほか、プラットフォーム・ビジネス局の廣田周作氏が情報社会学者の濱野智史氏と対談した記事が、社内報から転載されている。広告代理店といえばコピーライターやアートディレクターのような「クリエイティブ職」が典型的なイメージだが、ここには登場していない。その理由について、小川部長は次のように説明する。

「クリエイティブ系の社員は、広告賞受賞などのトピックでメディアに登場する機会も多い。しかし弊社には、他にもおもしろい人材が多いと自負しているので、会社としての『間口の広さ』『層の厚さ』を見せたかった」

「会社のブランド力向上」につなげることができるか

   身元を明かしたネットでの情報発信に否定的な会社は、それが会社にとって必要性に乏しく、リスクが高いだけと考えているのだろう。しかし、時間外の活動まで会社が制限することへの批判もあり、フリーランスから「顔が見えないサラリーマン」と揶揄されることもある。

   一方、魅力的な社員が情報発信する姿は、勤務する会社のイメージを高めている。

   外資系企業の中には「実名による情報発信」を奨励しているところもある。IBMのソーシャル・コンピューティングのガイドラインには「身元を明らかにした上で、一人称で語りましょう。自分自身の意見で、その個性を前面に打ち出し、思っていることを語りましょう」と書かれている。

   なお、条件として「このサイトの掲載内容は私自身の見解であり、必ずしもIBMの立場、戦略、意見を代表するものではありません」という免責文を入れることが必要だが、個性を出した情報発信が、ひいては会社のためになると考えているに違いない。

   「電通人語」も、企業のコントロール化に置きながら社員が情報発信できる環境を整えることで、企業のブランド力向上につながることを期待していると思われる。自由な意見をどこまで許容できるかは未知数だが、社員が実名で情報発信がしにくいネットの現状に、新しい世界を切り開いてくれることを期待したい。(岡 徳之

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