受験シーズンが始まった。日頃の努力をいかんなく発揮する機会だが、運よく実力以上の学校に合格する人もいれば、体調不良で実力を発揮できずに涙を飲む人もいる。どんな結果であっても現実を受け入れ、次の一手を考えるしかない。
ある会社では、試用期間中の勤怠が思わしくなかった女性社員に、本採用しない方針を伝えたところ、「頑張るからなんとかして欲しい」と懇願されたという。人事担当は、試用期間を延長すべきか、それとも期間満了で終わりでよいのかと頭を悩ませている。
「たった2か月で私の何が分かるというのですか!」
――広告代理店の人事です。昨年中途採用したAさんのことで困っています。20代後半の女性で、キャリアもあり人間性もよさそうだったので、営業職として採用したのです。
ところが蓋を開けてみると、仕事の仕方は実にマイペース。おまけに「体調が優れなくて」と頻繁に遅刻し、休むことも多くあります。
営業部は計画達成に向けて、チームで仕事をすることが多いため、同僚から不満が上がっていたようです。働き始めて3週間、部長がAさんに注文を出しました。
「体調が悪いようだけど、大丈夫か。みんな心配しているよ。うちはメンバーが少ないから、ひとり欠けると困るんだ。できるだけ定時に出社して欲しい」
翌日からAさんの欠勤は減りましたが、やはり遅刻や早退は続いています。部長は「これでは面倒見切れない。うちの部署ではうまくいかないな」とサジを投げたので、2か月間の試用期間で契約を終了することにしました。
部長が試用期間満了の1か月前を見計らって本人に伝えたところ、
「たった2か月で私の何が分かるというのですか。体調不良はたまたまです。頑張りますから何とかして下さい!」
と懇願されたそうです。もちろん最終的には会社で総合的に判断しようと思いますが、こういうとき他の会社はどうしているのか教えて欲しいと思います――
社会保険労務士・野崎大輔の視点
テスト本番でうまくいかなかったら合格しないのと同じ
今回のようなケースでは、普通の中小企業は試用期間を延長せず、期間満了で本採用しないと思います。試用期間というのは、一種のテストです。仮に実力があったとしても、テスト本番でうまくいかなかったら合格しないのと同じ感覚です。お互いに期待があった分、残念に思うかもしれませんが、ここは粛々と処理することで問題ありません。変に期待を持たせて延長しても、改善しなければお互いに時間や費用のロスになります。
試用期間といえども、合理的な理由がなければ解雇権濫用と判断されますので、「試用期間中の勤怠が思わしくなく、本採用すべきという判断に至らなかったため」という理由を準備しておきましょう。そのためには、日々の遅刻や欠勤の記録を残しておく必要があります。なお、試用期間でも「解雇予告手当」を支払って解雇することも可能です。辞める方も手当がつくならと、気分を害さず辞める人もいるかもしれません。
臨床心理士・尾崎健一の視点
パートなど就労条件を変えて継続勤務してもらうことも
入社から時間が経つごとに新しい環境に慣れて、実力を発揮し、勤怠も改善する例はあります。もしもAさんに潜在能力がありそうで、もう少し様子を見る余地があるのなら、パートなど就労条件を変えて継続して働いてもらう方法もあるかもしれません。
時給制にすれば、「始業時間を遅らせて働いた分だけ支払う」「欠勤、遅刻分は控除する」など柔軟な対応ができるので、会社としては損失が少なくなります。Aさんが「正社員じゃなくちゃイヤ」とこだわるならば、始業時間は遵守してもらう必要があります。解雇だと抵抗するかもしれませんが、期限を決めて「ここまでにフルタイムで勤務できなければパートに切り替えますよ」と通知すれば、意外と「じゃあパートでもいいです」と応じるかもしれません。会社としてマイナスにならない延長の仕方、時給制や時短の契約社員など幾つかのパターンを提示して、その中から選んでもらう方法も検討できるでしょう。
(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。