2005年以降に大量発覚し、社会問題となった「保険金不払い事件」。契約者が月々の保険料を適切に支払っているのに、保険会社が保険金を不当な理由で支払わないケースが明るみに出て、保険業界の存在意義を危ぶむ声もあがった。
背景にはバブル崩壊以降の低金利で抱えた「逆ザヤ」問題などがあるが、金融庁の厳しい行政指導もあり、現在は保険金・給付金の支払いにかなり気を配るようになっているようだ。
それでも、不払い問題は根絶したとはいえない。その原因は保険会社や代理店による場合もあるが、契約者側にも存在するという。保険金は「契約者の請求によって支払われる」という原則があるからだ。
万一に備え家族で「金融商品リスト」を共有
最近では、契約者から入院給付金の請求があったとき、保険会社は「あわせて通院給付金も請求できる可能性がある」と契約者に案内するケースが増えているという。契約上の義務ではないが、不払い問題を機に「保険会社は不親切すぎる」と批判があったためだ。
とはいえ、契約者側から全くアクションがなければ、保険会社としても支払いのしようがない。
契約者本人が亡くなった場合には遺族が請求しなければならないし、本人が契約内容を十分理解しないまま家族が医療保険の保険料を支払っていて、請求が漏れてしまう場合も現実にありうるだろう。
契約者が原因の「請求モレ」を防ぐためには、どうしたらよいのか。オリックス生命の保険金部長、榎本祐二氏によると、家族間での「情報共有」が基本となるという。
「家族が保有している金融商品のリストを作成し、写しを共有しておくと、万一の場合に手続きが円滑に進みます。せっかくの保険料が支払い損になってはもったいないですからね。特に契約者が65歳を過ぎたら、いちど確認してみることをお勧めします」
親が自分で保険料を支払い、受取人を子にしている場合でも、子どもにきちんと伝えておかないと請求モレになる。年に一度は「ご契約内容のお知らせ」が郵送されるが、別世帯で暮らしていると見過ごしてしまうおそれもある。
また、請求モレの原因となりやすいのが、「契約した商品内容の分かりにくさ」だ。保障内容に含まれていないと思いこんでいると、実は保険金が下りる場合もある。保険会社に照会すれば調べてもらえるが、あまりにも複雑でそれすら気づかないこともある。
「自分が何を契約しているのか認識していなければ、請求できませんからね。契約内容がシンプルに整理できれば、何かあったときに『あの保険があった』とすぐに気づきます。逆に、支払いを期待していたのに、ささいな理由で『実はそのケースは保障に含まれていないんです』と言われるのも腹が立つでしょう」
トラブルの相談に乗ってくれる「生命保険相談所」
もし保険会社に保険料の支払いを請求したのに、拒否されてしまい、その理由が納得できない場合はどうすればよいのか。社団法人生命保険協会が運営する「生命保険相談所」では、生命保険に関する相談や照会を受け付けてくれるそうだ。
相談所は保険業法に定める指定機関として、保険会社とのトラブル解決あっせんも仲介してくれる。相談所のアドバイスにもかかわらず紛争に発展してしまった場合、相談所内の「裁定審査会」が第三者の立場から和解あっせんを行う。審査会のメンバーは、弁護士、消費生活相談員、生命保険相談所の職員といった専門家だ。
裁定は非公開で、裁定費は無料。裁判よりも手続きが簡易でスピーディに進み、事情聴取は全国に53か所ある地方事務室からテレビ会議システムを使って行うこともできる。生命保険会社は、提示された和解案を原則受け入れなければならない。
保険会社側も、適切な保険金の支払いを確保するための組織体制を充実させている。榎本氏によると、オリックス生命では2012年3月に独立した「支払審査室」を設け、契約者が支払結果に納得しない場合に再請求できる「再査定制度」を導入しているという。
再査定結果にも納得しない場合には、弁護士や医師等の第三者で構成した「支払諮問会議」に再審査を請求できる。
「トラブルになったら裁定審査会の利用をお勧めしますが、それ以前に最初から支払体制がしっかりした会社を選ぶことも重要だと思いますよ」