「安易な使い込み」でキャリアを棒に振る警察官が続出

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   2012年に懲戒処分を受けた警察官や警察職員が、8年ぶりに400人を超える見通しだ。一時は不祥事対策で200人台まで減ったものの、2010年に385人に増えてから、再び高止まりになっているという。

   警察庁によれば、2012年上半期に懲戒免職処分を受けた警察官は全国で31人と、前年同期の16人から倍増。停職も合わせる83人に達し、警察改革が始まった2000年以降、上半期では最悪の数字だ。

   警察官もヒトの子と言ってしまえばそれまでだが、社会の安全を守るべき人たちによる不正の増加は、非常に残念であり不安でもある。

目についた「捜査費の横領」

「みんな多かれ少なかれやっているから許される」という状況があったのではないか
「みんな多かれ少なかれやっているから許される」という状況があったのではないか

   昨年発覚した警察官の犯罪で最もショッキングだったのは、年末に逮捕された富山夫婦殺害・放火事件だが、最も多かったのは「窃盗詐欺横領等」だった。2012年上半期の処分は52人と、全体の約25%を占める。

   中でも「捜査費の横領」による懲戒処分が目についた。8月3日、大分県警の警部補A(50代)が、捜査諸雑費から4万4千円を横領した容疑で書類送検され、停職6ヶ月の懲戒処分を受けて依願退職した。約3年半の間に、10数回にわたって交際相手への手土産の菓子を買っていたそうだ。

   捜査諸雑費とはその名のとおり、捜査で生じる駐車場代、電話代などの雑多な出費で、月5千円程度の現金が捜査員に預けられ、毎月末に領収書を付けて精算する。菓子代は、捜査協力者への謝礼として認められており、Aはそれを悪用した。

   「Aが不適切な交際をしている」との情報提供を受けて発覚。調べに対しAは、「安易に考えていた」と供述し、着服金は全額弁済した。

   10月19日には、警視庁の警視B(60歳)が、24万6千円の捜査費横領容疑で書類送検され懲戒免職となった。Bは最終的に100件以上、約140万円の着服を認めて全額弁済した。

   部下との飲み食いや家族との食事代などに流用しており、「部下におごって、格好をつけたかった」そうだ。請求回数や添付された領収書に不自然なところがあり、異動後の監査で発覚している。

「みんなやっている」と正当化する状況を根絶すべき

   さらに12月25日、山口県警の警部補C(43歳)も捜査費横領容疑で書類送検され、懲戒免職処分を受けている。情報提供者への謝礼の支払いを意図的に遅らせたり、領収書を偽造したりするなどして、4回にわたり14万円を着服。別の捜査員が監察官室に指摘して発覚した。

   Cは着服金をタバコ代や食費に充てたとのことで、「小遣いが少なく生活が苦しかった」と供述している。見つかってすぐに弁済していることから考えて、3人ともカネに困って止むにやまれず犯行に及んだわけではなく、「安易な使い込み」をしてしまったようだ。

   事件を受けて警察側は「捜査費に関する監査を強化するなどして、再発防止に努める」とコメントしているが、多数の捜査官の活動を細かくチェックするのは容易ではない。あわせて過去の事例から横領が生じる背景を分析し、対策を打つべきだろう。

   まず、捜査費の使用のルールがあいまいで、「みんな多かれ少なかれやっているから許されるだろう」という状況があった可能性がある。時に危険を犯す捜査員の中には、「捜査費=追加手当」などと考えて、横領を正当化してしまう者もいたのかもしれない。

   1回の金額が少額なことも罪の意識を鈍らせてしまうだろうし、「部下の苦労をねぎらいながら情報共有するのも捜査の一環」とか、「交際相手からも情報を求めたんだから」などと都合のいい言い訳はいくらでもひねり出してしまうのが人間だ。

   再発防止には、あらためて捜査費を使用してよい用途と悪い用途を明確にし、「安易な使い込みで警察官のキャリアを台無しにしてしまった」ケースを組織内に周知して、横領を許さない姿勢を強く打ち出すことが必要である。(甘粕潔)

甘粕潔(あまかす・きよし)
1965年生まれ。公認不正検査士(CFE)。地方銀行、リスク管理支援会社勤務を経て現職。企業倫理・不祥事防止に関する研修講師、コンプライアンス態勢強化支援等に従事。企業の社外監査役、コンプライアンス委員、大学院講師等も歴任。『よくわかる金融機関の不祥事件対策』(共著)、『企業不正対策ハンドブック-防止と発見』(共訳)ほか。
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