「全幅の信頼を置いている」という管理責任放棄
報道によれば、Aは「3、4年前まで広告代理店に勤め、その後は定職に就いていなかった」そうだ。ここ数年間の職歴を細かくチェックしていれば、何らかのアラームが鳴ったのではないか。もちろん、履歴書にはいくらでもウソを書けるが、面接で細かく質問すればボロが出るだろう。
さらに、お決まりのパターンであるが、「経理を一任する」のは非常に恐ろしい。よく「彼(彼女)には全幅の信頼を置いている」と言う経営者がいるが、それは管理責任放棄に等しい。
中小企業であれば、経理を一人にやらせなければいけない現実もあるだろう。その場合には、社長自らが毎日のカネの動きをチェックすべきだ。この事件は、振込先をまめに精査していればすぐに分かっただろう。また、最終的に税理士が気づいていることから、多少コストを掛けてでも、税理士に毎月チェックしてもらうこともできる。
今年も多くの横領事件が報道されるだろう。それは氷山の一角かもしれない。自分の会社では決してありえない、という保証はない。横領の動機は誰にでも生じ得るし、「見つからない」と思えば、あれこれ理由をひねり出して不正を正当化してしまう危うさがあるからだ。(甘粕潔)