入社直後から「横領ざんまい」 2億8000万円の損害を与えた経理社員

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「全幅の信頼を置いている」という管理責任放棄

   報道によれば、Aは「3、4年前まで広告代理店に勤め、その後は定職に就いていなかった」そうだ。ここ数年間の職歴を細かくチェックしていれば、何らかのアラームが鳴ったのではないか。もちろん、履歴書にはいくらでもウソを書けるが、面接で細かく質問すればボロが出るだろう。

   さらに、お決まりのパターンであるが、「経理を一任する」のは非常に恐ろしい。よく「彼(彼女)には全幅の信頼を置いている」と言う経営者がいるが、それは管理責任放棄に等しい。

   中小企業であれば、経理を一人にやらせなければいけない現実もあるだろう。その場合には、社長自らが毎日のカネの動きをチェックすべきだ。この事件は、振込先をまめに精査していればすぐに分かっただろう。また、最終的に税理士が気づいていることから、多少コストを掛けてでも、税理士に毎月チェックしてもらうこともできる。

   今年も多くの横領事件が報道されるだろう。それは氷山の一角かもしれない。自分の会社では決してありえない、という保証はない。横領の動機は誰にでも生じ得るし、「見つからない」と思えば、あれこれ理由をひねり出して不正を正当化してしまう危うさがあるからだ。(甘粕潔)

甘粕潔(あまかす・きよし)
1965年生まれ。公認不正検査士(CFE)。地方銀行、リスク管理支援会社勤務を経て現職。企業倫理・不祥事防止に関する研修講師、コンプライアンス態勢強化支援等に従事。企業の社外監査役、コンプライアンス委員、大学院講師等も歴任。『よくわかる金融機関の不祥事件対策』(共著)、『企業不正対策ハンドブック-防止と発見』(共訳)ほか。
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