「ヒトコマ抜いて、フタコマ足して…」 面白アニメのカギを握る「編集さん」

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   アニメを観ていると、あっという間に時間が経ってしまったと感じることはありませんか? 面白いアニメには「ストーリーがいい」「キャラクターがカッコいい」「作画がいい」という要素がありますが、「編集が巧み」という点も重要になります。

   アニメはストーリーやカット割りなどがあらかじめ設計されているため、実写のように複数のカメラで撮影したものをわざわざ編集するというプロセスがないと思われるかもしれません。しかし実際には、アニメなりのいろいろな工夫があるのです。

スプライサーでフィルムを切り貼りしていた昔

編集には「削る」感覚と「余白を残す」感覚の両方が欠かせない
編集には「削る」感覚と「余白を残す」感覚の両方が欠かせない

    アニメには、実写でいうところの1カメ、2カメ、3カメ…にあたるものがありません。コンテという設計図でおおまかなカメラアングルが指定されているため、「カットを選ぶ」というプロセスがないのです。

   テレビ一本分で60秒分くらいは長めに「カット」を作ることが多いのですが、基本的にはカットをつなげて、シェイプアップするとアニメができあがります。

   映像では、切断していない一連のアクションを「カット」といい、カットで構成された場面を「シーン」といいます。したがって、アニメではカットをつなげるとシーンになり、シーンをつなげると一本の作品になります。

   昔はフィルムをちょきんと切っては、スプライサーという編集機器でガシャコガシャコと貼り合せていたので、今でも「つなぐ」という言い方をします。フィルム時代には、

「そこ、ヒトコマ抜いて」
「うーん、やっぱりフタコマ足して」

と監督や演出が指示すると、編集さんがフィルムをハサミで切ったり、テープでつないだりしていました。知らない人が見たら、図画工作のように感じるかも知れませんね。

   この手作業も、いまではパソコンを使ったデジタル編集に置き換えられていますが、「このコマを切るべきか、切らざるべきか」は、いまも昔も変わらず頭を悩ますところです。

「因数分解」もあれば「畳の上にスプーン」もある

   さて、ここで質問です。アニメには全部で何カットくらいあると思いますか? 答えは、30分のテレビアニメであれば、約300カット。70分の劇場作品であれば、1200カット以上になります。

   この膨大なカットを刈り込むために編集さんの知恵が必要になるのですが、編集とは、相対的に不要な部分を削っていく作業ともいえます。北野武監督は「映画は因数分解だ」とよく言いますが、削ぎ落とされたカットで構成されたシーンは、まるでシンプルな数式のように美しいものです。

   しかし一方、一見ムダと思われるカットがあるからこそ、逆に味わい深く面白いフィルムになるということもあります。たとえば、医者と患者が会話している場面が「畳の上にスプーン」で締めくくられると、セリフがなくても結果がわかります。このような遊び心のあるカットは、削ぎ落したカットと対照的で楽しいものです。

   ほかにも、「真っ青な空」「雨上がりの庭先」「秋のうろこ雲」「風にそよぐ竹林」など、本筋とは無関係なカットを挿すこともありますが、削ぎ落したカットとカットのあいだに一見ムダと思われるカットがあることで、豊かな心象風景が醸し出されます。

   アニメは画面の情報が少ないとよく言われますが、コマを足したり引いたりすることによって、実はキャラクターたちの気持ちを雄弁に語れるのです。

   アニメの編集さんは、「因数分解」をしたり、「畳にスプーン」を長めに見せたりと、いろいろな工夫をしています。今度アニメを観るときには、編集に注目してみてみると意外と面白い発見があるかも知れませんね。(数井浩子)

数井浩子(かずい・ひろこ)
アニメーター、演出家。『忍たま乱太郎』『ポケットモンスター』『らんま1/2』『ケロロ軍曹』をはじめ200作品以上のアニメの作画・演出・脚本などに携わる。『ふしぎ星の☆ふたご姫』ではキャラクターデザインを担当した。仕事のかたわら、東京大学大学院教育学研究科博士後期課程に在籍。専門は認知心理学
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