社員の「親族の困窮」が横領につながることもある

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時効は最長20年。逃げおおせるものではない

   平素から「公私ともに何か困ったことがあったら一人で悩むなよ」という安心感を与えておくことも重要だ。会社に借入を申し込める制度を設けられれば理想的だろう。相談ができる相手が社内にいれば、思い余って道を踏み外すリスクを軽減できる。

   そんな「優しく包み込む目線」を持つ一方で、「不正に対しては厳しく対処する」という規律を浸透させることも重要だ。横領は懲戒解雇とし、悪質なものは刑事告訴も辞さない。会社に与えた損害賠償請求することも考えられる。

   損害賠償請求は親族に及ぶこともあるし、場合によっては横領をそそのかしたとして親族を訴えることもあるかもしれない。このように、

「親族のために不正をしても、結局は親族のためにならない」

ということを知らしめるのである。

   なお、不法行為責任の損害賠償請求権は、被害者が損害および加害者を知ったときから3年、または不法行為のときから20年経たないと時効消滅しない。

   前園長のように組織のトップとしてやりたい放題した場合でも、後任の園長が不正を発見すれば、損害を受けた保育園として20年前までさかのぼって告発できる場合があるということだ。「辞めてしまえば逃げられる」わけにはいかないのである。(甘粕潔)

甘粕潔(あまかす・きよし)
1965年生まれ。公認不正検査士(CFE)。地方銀行、リスク管理支援会社勤務を経て現職。企業倫理・不祥事防止に関する研修講師、コンプライアンス態勢強化支援等に従事。企業の社外監査役、コンプライアンス委員、大学院講師等も歴任。『よくわかる金融機関の不祥事件対策』(共著)、『企業不正対策ハンドブック-防止と発見』(共訳)ほか。
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