「まさに荒くれクルーを束ねる海賊船の船長ですよね」
アニメ監督の冨野由悠季さんなどにインタビューした『プロ論。』のライター上阪徹さんは、アニメ監督の仕事をこのように表現していました。
たしかにアニメの現場で監督といえば、作品づくりの親方です。会社で例えれば「社長」、海賊船なら「船長」ともいえます。
海賊船の船長がいざ一声かければ、上は一等航海士から下は甲板員まで、目的地を目指して一丸となって船を操ります。たとえ海賊船のように荒くれ者の集団でも、いざというときの船長は絶対なのです。
「温泉シーン!」と「脱がさないで」の板ばさみ
そんな絶対権力者の船長ですが、アニメ監督の仕事相手は荒くれクルーだけではありません。船の行く手は障害物だらけです。
一般の企業でも多様なステークホルダー(利害関係者)が存在しているように、アニメ作品にも多くの人たちが関わっています。
アニメにおけるステークホルダーには、制作会社や広告代理店、メディアやメーカー、原作のあるアニメでは出版社も加わる「製作委員会」があります。これらの利害関係者は、出資率によって作品への発言力が異なります。
アニメの現場にとっては「作品」でも、出資するステークホルダーにとっては「商品」という側面もあります。そして、プロジェクトの規模が大きくなればなるほど、制作委員から出る意見には各社の利害が交錯することになります。
放送局からは「肌の露出はひかえていただきたい」と言われる一方、映像メーカーからは「売れるから温泉話はマストですね!やりましょう!」と言われたりします。
しかしなによりも、つくり手が最も意識しているのはアニメを観てくれる人たち。アニメ監督もステークホルダーも、それぞれに視聴者やファンに届けたい想いがあります。
このような矛盾する難題を解決して「アニメ作品」という目的地まで無事に船を操ることはアニメ監督の大きな役割ですが、想定外の風雨あり急変する潮目ありで毎日がハラハラする緊張の連続です。