また起こってしまった 鉄道会社社員による「落し物着服100万円」

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   皆さんは、電車に大事なものを忘れたり、落としたりしたことはあるだろうか? 恥ずかしながら、筆者は何度か冷や汗をかいたことがある。昨年は、新幹線の中で財布を落としてしまった。幸い、降りた駅が終点で、車内清掃の方がすぐに見つけてくださり、当日中に無事発見された。受け取りに行った時は、JR西日本の職員の方が神様に見えた。

   一方で、残念なことに、同社職員による遺失物横領の事件も起きている。2012年12月10日、某駅の男性職員A(34歳)が、電車内で乗客が拾った1万円を着服したとして懲戒解雇された。会社はAを刑事告訴する方針だ。

3年前にも全く同じ事件。生かされなかった教訓

   Aは契約社員で、6年前から同駅で落とし物の管理を担当。遺失物を預かった際には管理システムに登録することになっていたが、一部を入力せずに横領していたという。約2年前から「100万円くらい」を着服して携帯電話代などに使っており、Aが使用していたロッカーから横領した遺失物とみられる財布50個とポーチ8個などが見つかった。

   発覚のきっかけは、列車内で現金を拾った客からの「落とし主は見つかったか」という問い合わせであった。内部のチェックではなく、外部からの問い合わせで発覚したというのも残念な話だ。

   JR西日本では、2009年にも全く同じ事件が起きている。この時の犯人は当時28歳の男性職員で、やはりロッカーから財布やバッグなど96点が発見された。その時の教訓は生かされなかったのだろうか?

   再発防止にあたっては、基本中の基本である「一人に任せずチェックを強化する」具体策を講じる必要がある。性悪説(せいあくせつ)的な対応ではあるが、このような事件が相次ぐ以上、やむを得ないだろう。

   JR西日本は、再発防止策として「遺失物の受理場所への防犯カメラ設置」を挙げている。確かに、受付場所を定めてそこに防犯カメラを設置すれば抑止力は高まるが、防犯カメラの映像を実際にチェックしなければ宝の持ち腐れだ。手間は掛かるが、駅の管理者または内部監査員が抜き打ちでチェックし、管理システムへの登録内容と照合する必要がある。

   受付場所は死角のないオープンなレイアウトにし、常に複数の職員の目が届くようにする。遺失物をロッカーに隠すような不審な行動を取りにくくするためだ。

職員にポケットのない制服を着用させる会社も

   職員の業務日誌に「本日の遺失物受付状況」記載欄を設け、記入を義務づけるのもいいだろう。公式な文書にうそを書くのは心理的抵抗感があるため、抑止力が高まる。

   遺失物管理の担当者を固定化しないのも内部統制の鉄則だ。例えば、担当者を持ち回りにして、後任者が不自然な状況がないかチェックするようにする。実際、横領事件の多くが、担当者の交代時に発覚している。

   過去の事件を教訓として、ロッカーについても再検討する必要があるだろう。個人の専用ロッカーは廃止し、物を置きっぱなしにできないようにする。中身を抜き打ちチェックするなどが考えられる。ロッカールームの出入口にも防犯カメラを設置できればなおよい。

   ちなみに、個人情報を大量に扱うDM発送業者の中には、職員にポケットのない制服を着用させて、重要物の持ち出し防止を図っているところもある。

   しかし、このようなチェック機能をいかに積み上げても限界はある。例えば、数年前に私鉄で発生した横領事件では、遺失物登録は2人で行うことになっていたが、駅員と入力担当者が結託していた。

   最後は、職員一人ひとりの正直さに行きつく。今さらではあるが「落し物をポケットに入れるのは犯罪であり、厳しい処分が待っている」ということをあらゆる機会を使って言い聞かせ続け、違反者は厳正に処分することで、規律づけることが不可欠だ。(甘粕潔)

甘粕潔(あまかす・きよし)
1965年生まれ。公認不正検査士(CFE)。地方銀行、リスク管理支援会社勤務を経て現職。企業倫理・不祥事防止に関する研修講師、コンプライアンス態勢強化支援等に従事。企業の社外監査役、コンプライアンス委員、大学院講師等も歴任。『よくわかる金融機関の不祥事件対策』(共著)、『企業不正対策ハンドブック-防止と発見』(共訳)ほか。
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