会社の後輩の女の子が、自分の頭の上を見ている気がする。取引先にあいさつしたとき、頭頂部に視線が行っているようだ。心ない職場の先輩社員から「お前、最近ここ危なくなってるんじゃないか?」とからかわれた――。
そんなことがきっかけで、風呂場で抜けた頭髪の本数を数えなければ気がすまなくなった。髪の毛にいいと言われる海藻を食べたり、シャンプーや整髪料に凝ってみたり、ブラシで頭皮を激しく叩いてみたり…。そんな20~30代のサラリーマンが増えている。
頭髪を気にしすぎて生活全体が陥る悪循環
薄毛の原因は、いわゆる「男性型脱毛症(AGA)」の場合が多いが、それでも全体の3割ほどは医学的に見ると健常毛の可能性があるという。
事実に反して「自分はハゲている」と思い込み、そのために消極的な生活を送っているとしたら、かなり気の毒なことである。
こうならないためにも、髪に関する正しい知識を持っておきたい。月5500人もの患者が訪れる頭髪治療専門の城西クリニック(東京・新宿)の小林一広院長によると、AGAの原因は「遺伝」「男性ホルモン」「ストレス」「生活習慣(食事・喫煙・睡眠不足など)」の4つの要素が複合的に組み合わさったものだという。
簡単に言うと、体毛を濃くする男性ホルモンのテストステロンが、毛母細胞の中で脱毛をうながすホルモンに変化し、髪が太く長く成長することを妨げる。それが原因で、成長前に毛が抜けてしまったり、うぶ毛のような細い毛にしかならなくなってしまう。
男性ホルモンの分泌や毛母細胞への作用には、遺伝が関係しているが、ストレスや生活によっても悪い影響が生じる。これがどう組み合わさっているかは人によって異なり、医学的には「こうすれば必ず髪が生える」という方法はない。
精神科出身の小林院長は、「医学的な治療をしながら、心身ともに健康であることを心がけること」を勧める。
「専門医に抜け毛を抑制する飲み薬と、髪の成長を早める塗り薬を処方してもらい、頭皮のケアに心がけることが欠かせません。そのうえで、『心身ともに健康』であることを心がけるべきです。あなたが思っているほど、周囲はあなたを見ていない。思っているほど薄くない。気にしすぎることで生活全体がかえって悪循環になる、と助言することが少なくありません」
治療によって毛髪の状態が改善したり、抜け毛のスピードを抑えることができる。費用は、頭部撮影と診察、30日分の薬代込みで月に最大で3万円ほど。6か月の治療で効果が確認でき、1年~1年半で「回復」までこぎつける。
6カ月で効果がない場合、治療の打ち切りを提案する場合もある。効果が現れない治療に多額の費用を何年間も支払うのは「医学的には考えられないこと」だという。