「その机、どこに何があるのか分からないね!」
アニメスタジオでは、スタッフ同士でお互いの机を冗談半分にからかい合うことがあります。「仕事ができる」アニメーターやデザイナーの机は、資料だけでなく趣味の写真集やフィギュアで溢れていることが多いからです。
ビジネス誌では「デスクの整理整頓で効率アップ!」「仕事のできる人の机はキレイ!」といった特集が目につきますが、本当に机が完璧に片づけば仕事ができるようになるものでしょうか。私はここで、あえて疑問を呈してみたいと思います。
平行する仕事のプロセスは「地層」で判断する
断捨離ブームに逆行するようですが、アニメーターやデザイナーは「片づけられない人たち」の代名詞といっても過言ではありません。
たいていの机の上には、参考資料の写真集やフィギュアなどが所狭しと置かれています。
しかし、質の高い仕事をするために、この机上の混沌(カオス)はなくてはならないものです。「仕事のできる人」は常にいくつものプロジェクトを同時進行で走らせていますが、整理整頓をしない方がなぜかアイデアが湧くようです。
ちなみにアニメ机では、資料は立てず、横に積む「平置き」にしているのですが、この置き方はいざというときに意外な効力を発揮します。それは、仕事のプロセスを「地層」で判断できることです。
いくつかのプロジェクトを平行して進めるとき、私も仕事ごとに資料の山を作りますが、そうすると、一番上にあるものが最新版になりますし、作業のボリュームも横から見ると直感的に分かります。
そして、過去のプロセスに立ち返るときには、「地層のこのあたりにあったかな」と当たりをつけて取り出すことができます。考古学者のように、「地層」によって書類の新旧を見極めることができるのです。
ガンダムのフィギュアと土門拳の写真集が出会う場所
しかし、この地層も高くなりすぎると雪崩れが起き、地すべりした挙句、資料どうしが混ざります。
「そんなカオスから、どうやって創造的なアイデアを出すの?」
と思うかもしれませんが、ごちゃまぜになった資料からも意外と新しい着想が生まれます。
逆説的ですが「仕事ができる」アニメーターやデザイナーにとって、机の上がカオス状態だからこそアイデアが湧くのです。
人間は目に触れたものから、無意識に連想をしています。私たちの脳がアイデアを産み出すプロセスは、論理的に説明できるものだけではありません。
わたしの机も、設定資料や企画書などのほかに、仕事道具ありDVDありガンダムやケロロのフィギュアあり、メーカーからのサンプルあり…。さらには缶コーヒーや、お菓子の包み紙、土門拳の写真集にコンビニでもらうお箸やストローなど、モノに溢れています。
こういった、まったく接点のないと思われるモノから連想されるものは、本人でも思いもよらない発想になる可能性があります。
みなさんも発想の転換のために、机に資料を平置きにしたり、わざとカオスにしてみるのもアリかも知れません。とはいえ、もしも何のアイデアも出なかったり、上司に怒られたりしたらごめんなさい!(数井浩子)