私がアジア海外就職中に一番印象に残った街は、2012年2月に行ったベトナム・ハノイ近郊の新市街です。数年前には何もなかったと思われる田舎町に韓国資本が入り、72階建ての高層ビル「ランドマーク72」を中心に新しい街が丸ごと作られていました。
このビルに登ってあたりを見回すと、360度パノラマで工事現場が広がっています。広大な土地に道を作り、六本木ヒルズのような巨大商業施設を作り、高速道路を作り…。まさに「更地に街を建てる」という状態だったのです。
「これがアジアの発展か」と感動
「まるで、シムシティみたいだ…」
思わずそんな言葉が口をつきました。シムシティとは、プレイヤーが市長になって何もない土地に街を作り、発展させていくシミュレーションゲーム。スタート時には何のしがらみもなく、自分の思うがままの都市計画を描き、開発を進めることができます。
もちろん街が大きくなると、住民や企業からの文句が出たり、公害が発生したりと問題が次々と発生するので、バランスをとらなくてはなりません。そこがゲームの楽しさでもあるのですが、私はスタート直後の荒野に街を描く感覚が一番好きでした。
そして、ベトナムのこの街に、ゲームで感じたのと同じ感覚を持ってしまったわけです。もちろん元々住んでいた人もいるので、住民それぞれの想いがあり、現状を苦々しく思っている人もいると思います。
それでも、新しいものが驚くほどの質と量で次々と建設されていく様には、圧倒されてしまいました。「これがアジアの発展か、先進国の資本の力か」と、恐れの混じった感動を覚えたことをハッキリと覚えています。
残念ながらこの街の発展に日本企業はあまり絡めていないようですが、アジア各国では、多くの日本企業は工場の建設などを通じて産業構造を大きく変え、たくさんの雇用を生み出しています。発展途上国で仕事をすることの魅力は、このような劇的な変化の一部を担えることだと思います。
求められる「構想力」と「粘り強さ」
このような「まっさらな土地に何を作るか」という問題は、実は国内にもあります。ベトナムの地とは全く異なる理由で、新しい街を作らなくてはならない東北の被災地です。
津波で建物が押し流されてしまった場所には、元と同じものを建設すればいいわけではありません。東北の復興プロジェクトに関わっている友人によると、新しい開発を行うために、多くの企業の協力・投資や、地域住民の理解が必要なのだそうです。
関係者の利害調整、確認説明、広報活動など、やらなくてはならないことは山積みです。それでも、誰かがやらなくてはならない。そして、成し遂げれば多くの人が喜んでくれる。彼はそのことをモチベーションに日々困難に立ち向かっていると言っていました。
新興と復興という異なるフェーズにありながら、その土地の人のために街を創ることの困難さには通じるところがあります。
共通して求められているのは、希望に満ちた将来を描き出す「構想力」と、実現のために地道な努力を続ける泥臭い「粘り強さ」。それを追求できるのは「数十年先を見越し希望を創り出す」というビジョンがあるからではないでしょうか。(森山たつを)