人間にとって「転居」は大きな事件である。現在の住所から遠く離れた場所に転居したうえで、勤務地も異動する「転勤」は、かなり強いストレスを伴うものだろう。
日本のサラリーマンにとって、転勤は珍しいことではなく、「ノー」と言えないのが当たり前だった。しかし、ある会社では、転勤を拒否する若手社員が続出し、人事が頭を抱えている。
「だって、そう答えなきゃ内定もらえないでしょう」
――サービス業の人事です。当社ではここのところ毎年20人前後の新卒社員を採用しています。事業の成長性だけでなく、学生時代の専攻にかかわらず幅広く採用し、教育制度を整えているところも評価されています。
就職難ということもあり、「優秀だが大手から漏れた」という応募者が来てくれて、充実した採用が確保できていると自負しています。
ところが、そういった人材が配属後に退職を申し出るケースが増えています。特に地方の事業所への転勤を命じた途端に、拒否して辞める人が多いです。
もちろん採用時には転勤の可能性について説明し、「全国どこでもOKです」という返事を確認しています。しかし、実際に転勤を命じると、
「OKと言わなければ内定をもらえないと思ったので…。まさか本当にそうなるとは思いませんでした」
「面接のときはそのつもりだったんですが、彼氏と結婚の話が出ていまして…」
といった言い訳が返ってきます。転勤後に退職する若手社員もいて、「やっぱり地方暮らしは慣れないし、友だちもいなくて」と、なんだか子どもみたいな理由で辞めていきます。
就職難で、守れない約束までしてしまう若者が増えたのでしょうか。教育コストがムダになるうえ、各支店の人員計画も狂ってしまい支店長から人事にクレームが入ります。この流れをなんとか抑止したいのですが、どうしたらいいでしょうか――