今年は某ロボットアニメを演出していたのですが、アクション・シーンの打合わせをするときには、いつもうまく説明できずに困ってしまいます。それで結局、
「ここは、ドーンでバァァァァン!でドカァーーーンでガガガ!でよろしくお願いします」
と言ってしまいます。自分でもオカシイと思いますが、先輩たちもいつも音で説明していたことを考えると、ある意味「アニメの会議」の伝統といえるかもしれません。
最後に演出は叫ぶ「伝われ、オレの新触感!」
作画さんとの打ち合わせでは、映像の設計図である「コンテ」をもとに作品の世界観を説明し、シーンの状況やキャラクターの出入りなどを具体的に指示します。
しかし、アクションや感動場面の打ち合わせでは、状況説明やキャラクターの配置以外に、「バーン!」とか「ドーン!」「ガーン!」などの擬音語群、いわゆるオノマトペを使った説明が俄然増えます。
メーカーの新製品の企画でも、「今までにない新しい感覚」とか「常識を覆す新しいスタイル」といった言い回しがフツーに使われると思いますが、アニメの演出でも、クライマックス・シーンの「独特の新触感」をいかに伝えるかに心を砕きます。
言葉にできない未知の感覚を、あの手この手でなんとか伝えようとする監督や演出の腐心の結果がオノマトペなのです。
一方、作画スタッフにとっては、モヤモヤとしたよくわからないオノマトペをいかに「汲み取るか」が勝負になります。「バーンでガーンで、ドォォォンッでよろしく!」と言われたスタッフは、その人なりの「今まで見たこともない究極の爆発カット」を目指して苦悶することになります。
ビジネスパーソンのみなさんも、上司から「もっとさ、なんかパーッとした、ガーッって感じの企画ないの?」と無理難題を投げかけられて、帰りの電車で「一体、どうすりゃいいんだよっ!」と頭を抱えたことがありませんか? それとだいたい同じような感覚です。
きっと上司も演出も、部下やスタッフに言葉にならない感覚をぶつけながら「ごめん、あとはよろしく頼む!」という祈りと恥ずかしさが入り混じった気持ちでいるのだと思います。