某市の職員で小学校に勤務していたA(男性、60才)が、生活保護世帯への就学援助金や欠席分の給食費の返還金などを横領したとして懲戒免職処分となった。「給食費が戻ってこない」という保護者からの苦情で発覚した。
Aが認めた横領は、過去5年間で11件13万5000円。その他にも、受領書がなかったり、A自身が受領書を書いたりしているものがあり、Aは63件分、約43万円を市に返金した。市の職員として定年まで勤め上げ、今年度から再任用されたばかりであった。
「どんぶり勘定」取り繕ううちに泥沼化
新聞報道によれば、市教育委員会の事情聴取に対してAは「保護者が受け取りに来ない金銭を自分のかばんに保管するなど、ずさんな処理をしているうちに自分の金と紛れてしまった。文書の偽造は書類を整えるためにやった」と供述している(11月1日付毎日新聞)。
横領の動機は「カネに困って」というものが多い。しかし、Aの場合は金額や経緯から考えて、必ずしもそうではなかったのではないか。
現金のいい加減な管理がたたって、自分のカネと他人のカネが「どんぶり勘定」になり、自らのだらしなさがバレないようにと受領書を偽造するなどして取り繕ううちに、結局は浮いたお金をズルズルと使ってしまったというのが実態ではないか。
「カネに色はない」とよくいわれるが、きちんと分けて管理することは可能だ。特に、公金やお客さまから預かったカネは厳しく色分けしなければならない。ちょっとでもいい加減に取り扱うと、それが横領への「はじめの一歩」になってしまうこともある。
Aの場合は、とりあえず「自分のかばんに保管」したことがすべてのはじまりであった。
例えば、こんなこともあり得るだろう。牛丼チェーンのアルバイトが、並盛りの食券を買った客から「あ、やっぱり大盛りにして卵もつけてくれる?」と言われ、「わかりました!」と差額を現金で受け取った。
忙しかったので、制服のポケットに入れたまま入金し忘れ、更衣室で着替える時に気がついた。そして「今さら言えないし、盗んだと思われるのも嫌だし、大した金額じゃないから」とそのまま自分のポケットに入れ、帰りに缶ジュースを買ってしまった。それがきっかけとなり、今度は手渡しされた小銭を意図的に着服するようになる…。
「他人のカネ」にけじめをつけて自分の身を守る
現金を日々大量に扱う金融機関の職員は、このような落とし穴にはまるリスクが高い。
銀行等での横領事件の多くは、顧客から預かった現金をすぐに処理せず、差し迫った借金の返済に充て、給料日がきたら自分のカネで穴埋めする。あるいは、他の顧客から預かった現金の流用を繰り返すという形で続いていく。
仕事柄、金融機関の新入職員向けのコンプライアンス研修をすることがあるが、最初に強調するのは「自分のカネ」「お客様のカネ」「会社のカネ」には厳しくけじめをつけることが、最終的には自分の身を守るという点だ。
顧客と個人的にカネの貸し借りをするのはもちろん、会社に内緒で接待・贈答を受けるのもけじめがなくなるのでご法度だ。
また、集金した現金を一時的に手元に置くことは横領したのと同じで、取り返しのつかない事態を招く。そんな意識を最初に徹底的に植え付ける。
生まれながらの悪人はいない。一方で、絶対に不正はしないと言い切れる人もいない。ちょっとしたミスやずさんな処理がきっかけでAのように道を誤るということは、誰にでも起こり得るのである。明日は我が身ととらえて、日頃の仕事ぶりを見直し、襟を正したい。(甘粕潔)