営業には「人見知り」の方が向いていると思う理由

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   知らない人に会うことは誰でも緊張します。僕だってそうです。ただ、経験を重ねると慣れてくるのも事実です。でも、緊張しないのがいいのかというと、ちょっと違うのです。

   入社3年目で営業に異動したSさんは、それまで備品管理の仕事をしていました。初対面の出会いがない仕事が長く、職場内のコミュニケーションも希薄な状態から、いきなり営業になって非常に強い不安を覚えたそうです。

面接前日のような準備が功を奏した「初訪問の日」

   当初は、営業研修として先輩の商談に同席していましたが、約半月ほど経ったころ、上司から「明日からは1人で訪問するように」と指示が出ました。

   本来であれば、売上目標をどのように達成するか、というところに意識を置きたいところですが、Sさんの頭の中は訪問先のことで一杯です。「一体何を話せばいいのだろうか」と不安に駆られてしまいました。

   取引先の会社概要を改めて確認し、取引実績を前任の営業にヒヤリング。訪問の際に持参する資料のチェックは何回も行ないました。さらに重苦しい雰囲気にならないように、自己紹介の準備もしました。

「学生時代は運送会社で引越しのバイトに精を出していました。御社が移転する際には是非ともお手伝いさせてください」

   まるで入社面接前日のような感じです。

   ところが実際に訪問してみると、取引先の担当者は友好的な態度で接してくれました。おまけに「学生時代は何をしていたの?」「なにか商品の案内とかあるのかな?」と想定通りの質問をしてくれます。

   会話も弾み、好スタートとなった初回訪問。その後は徐々に緊張も解けて冗談が言い合える関係ができ、注文もそれなりにいただける状況になってからは、上司から細かい指導が少なくなりました。営業としてひとり立ちできた、と言っていいでしょう。

   自分でも「営業の仕事に慣れてきたかな」と思えるようになった半年後のこと。緊張感が解けたのでしょうか、思わぬミスが出始めました。

ライバル会社の営業マンに契約を横取りされる

   ある日の昼休み。昼食を食べて職場に戻ると、取引先からの伝言が机の上に置いてありました。

「電話があったことをお伝えくださいとのことでした」

   Sさんは「急ぎであれば『折り返しかけて』と言うだろう」と早合点して電話せず、夕方に直接その取引先を訪ねると、担当者が不機嫌な顔をしています。

「さっき電話したんだけど、連絡くれないからヨソに注文してしまったよ」

   実は今日のアポでもらうことになっていた契約書と同じような機能の商品について、午前中に訪ねてきたライバル会社の営業から、大幅に安い提案があったとのこと。

   おまけに「この場で注文いただけるなら値引きさせていただきます」と結論を迫ってきました。ここで取引先の担当者は「付き合いが半年になるSさん」との契約を優先するか、それとも「粗削りだが熱心なライバル会社の営業」を取るか迷いました。

   検討のために2時間の猶予を求め、Sさんに電話をかけましたが返事はありません。ちょうど2時間が経過したところで、ライバル会社の営業が電話をしてきました。

「御社のオフィスの1階におります。お伺いしてよろしいでしょうか?」

   その営業マンは、会社のそばで待機していたのでした。ここまでされては契約するしかありません。この顛末を聞いたSさんは、うなだれるしかありませんでした。仕事に慣れてきた一方で、何か雑になっているんじゃないか、と言われた気がしました。

緊張感のある仕事をすることで成長が見込める

   仕事に慣れないときには、何から何まで段取りを組んでおかないと不安になります。そんな緊張感のある仕事ぶりは堅苦しくもあるものの、担当者にしてみれば期待を抱かせるものがあります。

   緊張のあまりトンチンカンな話をしてしまっても、それはご愛嬌。緊張感に包まれた状況で仕事することが、大いなる成長を導いているのは間違いありません。

   ところが妙に仕事に慣れてしまうと、

「昨日と同じような準備で十分」
「クレームが出ても対処法は分かる」
「努力しても成果に大差は出ない」

と仕事を適当に済ます方法を覚えてしまいがちです。

   日々の仕事で緊張感を持続できる状況を、常に準備しておきたい。それが、営業には「人見知り」の方が向いていると思う理由です。人との関係を馴れ馴れしくナアナアで済ますことができない人は、仕事を通じて成長できる可能性があります。

   また、ライバルの存在を意識し、「手を抜くと大変なことになる」という自覚を忘れないことも重要です。その意味で、営業半年で手痛い失敗をしてしまったSさんは、むしろ幸運と言ってもいいでしょう。(高城幸司)

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高城幸司(たかぎ・こうじ)
1964年生まれ。リクルートに入社し、通信・ネット関連の営業で6年間トップセールス賞を受賞。その後、日本初の独立起業専門誌「アントレ」を創刊、編集長を務める。2005年に「マネジメント強化を支援する企業」セレブレインの代表取締役社長に就任。近著に『ダメ部下を再生させる上司の技術』(マガジンハウス)、『稼げる人、稼げない人』(PHP新書)。
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