なんでもかんでも「ネットに上げれば正義」とは
ランチやディナーを食べながら、スマホで料理や店の雰囲気のメモを取り、画像を撮り、余裕があれば画像に加工を加えた挙げ句、一気にSNS等に投稿するところまでやるよ――。何人かの知人から、こう聞かされました。
「へえぇ、そういうことだったの。でもさ、だからといってもさ、クレームはその場で直接言ってくれたらいいじゃない?」
何につけ、隠蔽や秘匿は悪、情報やプロセスは公開するのが善。闇雲にそういう風潮になってますからね。彼らにとっては、ネット上に事の成り行きや画像を公開するのは、正義を行っているのと同義なんでしょう。
オヤジさんも、美味しくつくる秘訣を訊かれて隠していると、あそこは美味いがとんでもない店だ、なんて書かれちゃうかもしれませんよ。
「マジかよ! 困った世の中になっちまったなぁ。集中してこしらえている時に、あれこれ質問されたんじゃ、ホントに困っちゃうなぁ」
冗談です。でも、ありえないとも限りませんよ――。ああ、そうなの、と50代店主はいかにもホッとした様子で言いました。
「でもね、方法論は書いたり話したりで伝えることはできるけど、それでも言葉にできななかったり、言葉にしにくいタイミングの妙や勘所ってのがあってね。それは、本人のセンスとか修業の中身とかによるんであって。だから、方法論を公開することってのは、そんなにリスクじゃないんだよ。むしろ、風評リスクのほうがキツい。だから、気にしてイノウエさんに訊いたんだよ」
なるほど。どれだけ便利になったところで、結局は本人次第。ベテランの職人さんに、思わぬところで良い稽古をつけていただきました。(井上トシユキ)