「家庭訪問」で確認する金融機関もある
Aはブランド品を買うだけでほとんど身につけていなかったから、仕事中しか接点のない会社の人間は異常に気づきにくかったのかもしれない。しかし、依存から脱しようと苦しむなかで、Aはこんな兆候を示していなかったか。
・無断欠勤をするようになる
・銀行に行くと偽って買い物をする
・落ち着きがなくなる
・周囲を避けるようになる
・周囲にお金を無心するようになる
同僚や上司がもっとAの言動に関心を払っていればと悔やまれる部分もあるだろう。さらに、Aの場合は、部屋中にブランド品があふれていたことから考えて、同居していた母親は間違いなく何らかの異常に気づいていたはずだ。
家族が異常に気づいたときに、それを会社に知らせてくれれば、リスク管理に大いに役立つ。実際に内部通報窓口やメンタルヘルスの相談窓口を社員の家族にも開放して、家庭で察知した異常を会社と共有しやすくしている企業もある。
さらに踏み込んだ対応として、金融機関、特に地域性の強い信用金庫の中には、横領リスク管理の一環として支店長による家庭訪問を実施しているところもある。「小学校じゃあるまいし」と笑う人もいるかもしれないが、実施している側は真剣だ。
このような家族の目や耳をリスク管理に活かす対応は、大企業では非現実的かもしれない。しかし、横領の原因が私生活にも深く根ざしている現実を見据えれば、このような対応も一考の余地がある。いずれにしても、「問題や悩みを素直に共有できる相手」の存在の大切さを改めて痛感する。(甘粕潔)