少し前の事件になるが、上場企業の地方支店で20年以上経理を担当していた女性A(判決時54才)が、9年間に約3億6000万円を横領したとして、2010年8月に懲役4年6月の実刑判決を受けた。
母と2人暮らしだったAの住まいの2階の部屋は、一度も使っていないブランド物の服、バッグ、時計などで埋め尽くされていたそうだ。典型的な買い物依存症である。
横領に手を染めたのは1999年。ブランド品の購入を繰り返す中でクレジットカードの枠がなくなり、消費者金融から借金をするようになったのがきっかけである。会社名義の口座から現金を不正に払い戻し、架空の立替金を計上するなどして隠し続けていた。
他人に甘えられない性格が「横領」の引き金に
Aは3人姉妹の真ん中。他の2人は結婚し、両親と暮らす中で父親が他界。「父を亡くした寂しさ」と「自分が母と家を守らなければというプレッシャー」が買い物依存のきっかけとなったとのことである。
一説によれば、この女性のように「他人に甘えられない(依存できない)」と自分を追い込むことが、その代替として物への異常な依存心をもたらすといわれている。
このような心理状態は、「他人に打ち明けられない問題」がもたらすプレッシャーが横領の動機となるという「不正のトライアングル」の考え方に通じるところがありそうだ。
依存症になるリスクの高い人は、ストレスを内面に鬱積させやすい上に、浪費でカネに困りやすいため、横領を犯すリスクが格段に高まる。企業としては、そのような人物に経理を任せるのは致命的といえるだろう。
2009年に公表された厚生労働省の調査によると、ギャンブル依存症の日本人は推計400万人。買い物依存に悩む人も含めれば、自社に依存症の従業員がいる可能性は低くない。
冒頭の横領事件では、Aに10年以上も横領の機会を与え続けた会社の管理体制のずさんさが最大の原因であるが、Aが「買い物依存症」だったということを職場の上司や同僚は気づかなかったのだろうか。