「東京では、もう優秀なエンジニアを採用するのは難しいんです」
都内のあるIT企業の採用担当者は、悩みをこう打ち明ける。事業の拡大を支えるウェブエンジニアの確保が課題となっているこの会社では、ここ数年、必要な人材確保に苦労しているという。
その理由は、未曾有の好景気に沸くゲーム業界に人材を囲い込まれているから。新卒のゲーム開発者には年収1500万円が提示され、学生たちの間では高給を得られる職種として浸透しているらしい。
1人10万円を支給するインターンシップも
黙っていても開発者が寄ってくるゲーム業界に対抗すべく、ネット企業が熱いまなざしを送るカテゴリーがある。それが「地方のオタクエンジニア」たち。これまで注目されていなかった地方大学や高専の卒業生などに、貴重な人材が残っているのだ。
決済代行会社のJ-Paymentでは「地方エンジニア上京支援プロジェクト」と銘打って、東京・渋谷の本社で働いてくれる開発者に「上京奨励金」を支給している。引っ越し費用はもちろんのこと、賃貸物件の敷金・礼金、面接で使った交通費、家賃3か月分も肩代わりする。
第一弾の九州地区での活動を終え、現在は中国地方で第二弾の募集をかけている。取り組みは地方の新聞社にも取り上げられ、地元のニーズを掘り起こした感がある。
サイバーエージェントでも、この夏に「プログラミングだけの夏」と題したエンジニア向けの「テクノロジーキャンプ」を実施した。同社の社員や内定者がメンターとなり、学生にアドバイスをしながら8日間の合宿でスマートフォンアプリを開発した。北海道や大阪、京都でも合宿も行い、参加学生には交通費や宿泊費を全額支給している。
ネット事業を展開するVOYAGE GROUPでも、同様のインターンシップを開催中だ。同社の開発者がメンターとして参加し、100万人以上が使うサービス企画、システムの設計を体験する。参加希望者は書類選考とスカイプによる遠隔地面接を経て、実地面接により絞り込まれる。宿泊費、交通費として1人あたり10万円が支給される。
地方のIT企業にも「埋もれた人材」がいる
なぜここまでして、地方の人材を求めに行くのか。ベースには高額な報酬で取り合いになっている都市部の人材の枯渇があるが、それ以外に、地方の人材ならではの強みや採用メリットもあるという。
「遊び場の少ない地方の学生には、逆に開発や研究に没頭できていたという利点があります。名前が知られていないがスキルが非常に高い『オタクなエンジニア』が埋もれていることがあるのです」(VOYAGE GROUP人事本部本部長・後藤尚人氏)
J-Paymentの井口氏は、地方のIT企業の中にも埋もれている人材がいるという。
「地方のソフトウェア開発会社には、受託開発を中心に取り組んでいる企業が多く存在します。顧客の要望に応えるため、さまざまなプロジェクトに取り組んだ経験を持っており、幅広い分野や開発言語に関する知識を身に着けている方が多いと感じています」
サイバーエージェント人事本部の松山雄太氏は、最近採用実績が増えている大学として、公立はこだて未来大学や会津大学、筑波大学、奈良先端科学技術大学院大学の名前を挙げた。いずれも、情報技術系に特化した学科を持つ大学だ。
地方学生や地方在住のエンジニアは、一般的に就職に対する意識が低く、情報も入りにくいという話も聞く。しかし、「地元でボチボチやればいいや」とのんびり構えていた人でも、高い報酬と大きなミッションが提示されると心が動くのかもしれない。
12月になると「就職活動」が解禁される。地方から異能を発掘して、業界に新風を巻き起こす会社が出てくることを期待したい。(岡 徳之)