臨床心理士・尾崎健一の視点
定年後に「嘱託」を挟むことには、心理的な意味もある
現役時代に頼りにされていた人が、名残惜しくなって会社を訪ねたくなる気持ちはよく分かります。「責任のない立場で思ったことを気楽にいえる」のも辞めたあとだからこそ。気分がよいものでしょう。その話に耳を傾けてくれる人がいるのは、現役時代に積み重ねた信頼の賜物だとは思いますが、それも過度になれば迷惑がられるのは仕方ありません。
定年を迎えて長年勤めた会社を辞めた人が「荷おろしウツ」に罹ることがあります。仕事のみに傾倒し、家族や趣味など仕事以外の柱を持たない人がなりやすく、急に「自分には存在価値がない」という思いに駆られてしまうのです。定年退職後の一定期間、嘱託などとして働いてもらうことには、このような環境の激変を緩和する意味もあります。しばらく責任の軽い仕事をしてもらってから辞めてもらえば、このようなリスクを減らせるかもしれません。Bさんの意向を聞いて、しばらく嘱託として働いてもらうことも考えられるのではないでしょうか。
(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。