皆さんは、自治会やマンション管理組合の役員をやったことがあるだろうか。企業ではないが立派な組織であり、大きなところでは億単位の資産を管理している。
一方で、役員は輪番制のボランティアでやることが多く、どうしても管理が甘くなる。そんな中、会長や理事長、さらにはマンション管理会社の社員による横領が相次いでいる。
「自治会のせいで収入減。報酬をもらう権利がある」
先日、1500世帯の自治会の元会長(47歳、男性)が、会費の積立金など6000万円を横領した容疑で逮捕された。会長に就任した2010年4月からの1年間に、2回にわたって自治会の定期預金を勝手に解約し、自分名義の口座に振り替えて着服した。
今年3月、自治会が銀行に残高照会をして不正が発覚。元会長は直後に行方をくらませたが、近隣の市で見つかり御用となった。盗んだカネは、高級外車の購入やパチンコなどの遊興費に使ったという。
警察の取り調べに対して、男は容疑を認め、「自治会長の業務が多忙で、自分の仕事の収入が減ったので、腹いせにやった。収入減の代償として使った」と動機を語ったそうだ。その語り口からして、こんな心の内が想像できる。
「オレは自営業で忙しいんだ。だから会長なんかやりたくなかったのに、くじ引きで当たったから仕方なく引き受けた。案の定、なんだかんだと毎日忙しい。おかげで、仕事の時間が食われて収入が減った。どうしてくれるんだ。生活を犠牲にして地域のために働いているんだから、自治会費から報酬をもらう権利がある」
この心理状態は、サービス残業が恒常化して不満がたまった社員が、私用の出費を会社に請求してしまう心理と似ている。
不正の動機は、自分の処遇に対するやり場のない不満であり、その不満が、「会社(自治会)には貸しがある」「会社には自分に償う義務がある」という正当化につながる。
そして、このような心理状態に陥った者が、見つからずに不正ができる機会を認識したときに、「不正のトライアングル」が完成する。