アパレルブランド「バナナ・リパブリック」は、フェイスブックの顔アイコンを使った着せ替えができるキャンペーン「FASHION TAGGING」を実施している。
20種類のコーディネートから、フェイスブック上の友達に似合う服装を選び、顔の部分を差し替えてその友達に通知する。受け取った友達は「この人は自分をこう見ているのか」「意外にこういうファッションもいいかも」という発見をするかもしれない。
人間関係上の情報を第三者が利用する「Graph API」
フェイスブックの顔写真を使ったキャンペーンは、最近よく見られるようになった。前回紹介したキットカット「オトナの甘えカタログ」もそのひとつだ。これを実現しているのが「Graph API」という仕様である。
Graph APIを簡単に説明すると、フェイスブックの人間関係上にある情報を、第三者が使えるようにするしくみである。キャンペーンアプリの提供者はユーザーの許可のもと、ユーザー本人や友達の情報にアクセスし、さまざまな形に利用できる。
このようなしくみがないと、イラストや写真の顔の部分を、友達の顔写真に差し替えるようなことができない。SNSだからこそ実現した、画期的なしくみといえるだろう。
友達の顔写真を使い、友達のタイムラインに投稿するのだから、その友達が気付かないわけはない。通知力は非常に強いものになる。関係性の強い人に限って使った方がよいかもしれないが、友達同士ならかなり楽しめる。
Graph APIが提供するのは顔写真だけでなく、友達の投稿内容も使えるようになっている。これをユニークな形で利用しているのが、サントリーの「ソーシャルシェイカー」だ。
アプリにログインし、友達と、彼や彼女に似合いそうなカクテルを選ぶ。そしてスマートフォンをバーテンダーのようにシェイクすると、オリジナルの名前のついたカクテルができるというものだ。できあがったカクテルは、友達のタイムラインに投稿できる。
企業側の説明責任と健全な運用が欠かせない
ネーミングに使われるのは、友達のフェイスブックの投稿内容だ。ひとり旅の投稿をしていた30代の男性に、ミドリパインフィズ(甘味や酸味を加えソーダで割ったお酒の一種)を勧めてみると、「ミドリおやじ一人旅フィズ」といった具合の名前がつく。
バーで中身の分からない変わった名前のカクテルを頼んでみるお遊びを再現した感じだろうか。タイムラインに投稿された友達が、スマートフォンを空に掲げて乾杯すると、「友達と乾杯しました!」と投稿される。芸が細かい。
友達に勧められたフィズを飲みたくなって、バーに足を運ぶかもしれない。カクテルにはレシピもついているので、自宅用にサントリーのリキュールが少しでも売れれば幸い、といったところだろう。
Graph APIは顔写真や投稿文だけでなく、投稿した写真、チェックインした場所、いいね!したページ、過去に利用したアプリ、参加したイベントなど多くの情報を活用できる。すなわち、ユーザーや友達の行動履歴や趣味趣向に関する情報を、企業に渡すことになる。
企業は、どんな属性の人がどんな服装やどんなカクテルに興味を持ったかを把握することも技術的に可能だ。ユーザーはアプリの利用に際して、何の情報を渡しどの範囲まで公開するかの設定が求められるので、よく確認する必要があるだろう。
企業側も、アプリを利用するユーザー側のメリットともに、企業側のねらいや、Graph APIから使う情報の整合性をきちんと説明しなければ、不信を買うことになる。この分野の発展を妨げないよう、健全な運営をしてもらいたいものだ。(岡 徳之)