馴染みのバーで飲んでいたら、「イノウエさんですよね?」と言って、相談を持ちかけてきた人がいました。
「いや、実は妙なことになってましてね。スマートフォンが普及したからか、SNSが流行っているからか知らないけど、とにかく見たこと聞いたことを、何でもかんでもすぐにツイッターやらフェイスブックやらブログやらに書いちゃう人が周囲に増えてるんですよ。これにはホント困ってまして…」
つい愚痴ってしまったら、数時間後には漏れている
このAさん(仮)はマスコミ関係者で、著名人はもとより知る人ぞ知る業界関係者まで、結構な秘密情報を知り得る立場にいます。
「なかには、世間に漏れてしまうと自分の信用がなくなってしまう、本当にマズいネタもある。そんなネタを知ってる人間は限られるから、いくら『某何々』とかイニシャルを使って対象者をわからなくしても、本人や関係者が読んだら漏洩先はアイツかアイツのどっちかだって、すぐに特定されてしまう」
それを親しい人だからと思って、ついうっかり愚痴ったりしたら、その2、3時間後にはもうSNSに「○○のワガママに周囲の関係者はホトホト困り顔だった」だなんて書いちゃってたりするんだから、本当に勘弁して欲しい。
「口走ったこっちが悪いのはわかってるんですけど、この間まで、スマートフォンやらSNSやらを始める前までは口が堅かった人が、急に、いきなり書いちゃう。あれ、何なんですかね?」
隠れ家的なバーですら「王様の耳はロバの耳」と叫べない、こんな世の中じゃ…ポイズン。ということですか。飲食業やホテルのバイトなどの従業員が、著名人の来店情報を悪し様にネットに書いて著名人ともども当の本人も炎上した、なんて事件もありました。
最近では大企業やマスコミで、SNSに私用アカウントをつくることを厳禁しているところも出てきています。
「そりゃ、ごもっとも。秘密保持、信用維持のためには、それぐらいした方がいいでしょうね。ところが、独立したり退職した先輩や、こちらが仕事をお願いする識者や先生方のなかにいたりするから困りものなんですよ」とAさん。なるほど、いろんな意味で立場がありませんね。わかります。
「閲覧可能な友人は制限してる」では済まされない
こうした事例は、これまでにもあちらこちらで話してきましたが、なぜネット上には気軽に何でもかんでも書いちゃうのかという心理は、あくまで想像するしかありません。
ひとつには、そこに書ける場所があるから書くという、単に調子に乗っていて何も考えていない「未必の悪意」のもの。あるいは、嫉妬心や悪意を持った自らのガス抜きなど、灰皿を壁に投げつけたり、他人の持ち物に唾を吐くように、わざわざわかってて書いてしまうもの。
さらには、これまでは社会的な立場や環境から抑制されていた、もとからある噂好きのお喋りといった資質が、どういうわけかネットやスマートフォンの使用によって開花してしまったというケースもあり得ます。
「ということは、困ってるってことをどう伝えればいいんですか?」
とAさん。ツイッターやフェイスブックなどのSNSは、自分だけの日記(ライフログ)のような気になりますが、実は世界中から覗き見され、悪くすればサルベージされて晒される可能性があるから自制してほしい。そうハッキリと念押しするしかないんじゃないですかね。
「でも本人は、閲覧可能な友人などは制限してるって言ってますよ?」
いま流行りの「遠隔操作ウィルス」もあることですし。素人にはもろ刃の件だ、と。「ああ、なるほど。じゃあ、そうやって釘を刺しておきましょうか」
「ツイッター殺人事件」起きやしないか
ちょっとしたことでもネットに書き込むケースは、たしかに多くなっているように思います。いいことだけならともかく、イジメに代表されるような、対象者にとっての悪い話が躊躇なく書かれてしまっていることも少なくありません。
ただ、昔から言われていることですが、文字オンリーのコミュニケーションは、言葉遣いなどによる誤解を招きやすい。ワザとなのか国語力の問題なのか、このあたりは意外と気にしていない人が目につきます。
このところ、ペットやゴミなどをめぐって隣近所でトラブルとなるケースが増えています。東京では先日、殺人事件にまで発展してしまいました。
こうしたトラブルは、これまでなら本人どうしや町内会で話し合ったりしていたのでしょうが、今後は町内や団地内、マンション内のSNSで話し合いが持たれるケースも出てきそうです。
誤解や感情の行き違いから、ツイッター殺人事件などというものが起きる危険もある。なんて思いが杞憂で終わればいいのですが。(井上トシユキ)