「3D」という言葉を聞いたことがあるだろうか。立体映像を指す「スリーディー(3次元)」のことではない。コミュニケーションの三悪ともいえる「でも」「だって」「どうせ」の頭文字をとったものである。
80年代後半には、何でも相手のせいにして文句ばかりいう若者を「3D族(さんでーぞく)」と呼んでいた。いまでも研修などの場面では、自分も相手もネガティブな気持ちにしてしまう「3D言葉」を使うべきではないと教えられている。
「でも」「だって」「どうせ」が出てきたら要注意
不正を犯す人々も、自分の行為を正当化するために、この「3D言葉」を使って自問自答する。まるで悪魔のささやきだ。
天使「横領は犯罪だ」
悪魔「でも、会社のカネを少しのあいだ借りるだけなら許されるだろう」
天使「私的な出費は、会社に請求してはいけない」
悪魔「大丈夫。だって、会社は残業代を出さないし、上司もこれくらいのことはやってるよ」
最近のできごとから、犯人の心理を「3D言葉」で推測してみよう。認知症などで判断能力の不十分な人の財産管理を代理する「成年後見人制度」を悪用した横領事件である。
2012年9月、父親の預金9000万円を横領した容疑で、娘とその夫が逮捕された。娘は85歳の病気の父親の成年後見人を務めていたが、父親の判断能力が低下しているのをいいことに、預金を勝手に引出して夫が経営する会社の運転資金に使った。
経営に四苦八苦する夫を目の前にして、妻はきっとこんなふうに悪魔のささやきに誘惑されてしまったのではないか。
「親の金に勝手に手を着けてはいけないことは分かっている。『でも』夫の借金がどうしても返せない。申し訳ないけど引き出させてもらおう。『だって』いずれ自分のものになるものだし、介護する負担だってある。『どうせ』親の老い先も長くない」
親族が成年後見人を務める場合、「身内のおカネは自分のもの」という安易な意識にも陥りやすい。刑法には、親族間の窃盗・横領等については刑を免除するという特例が定められている。しかし最近の最高裁判決では、成年後見人の事務は公的なものであり、親族であっても財産を誠実に管理する義務を負うとの見解が示された。当然のことだろう。