正社員主義、マイホーム主義といった「昭和的価値観」が崩れつつある現代ニッポン――。とはいえ、新たな拠り所は確立されていないのが現状だ。そんな社会情勢の混乱を背景に、遊牧民的な生活や働き方を志向する「ノマドワーカー」が現れている。
中でも、サッカー日本代表の熱烈なサポーターとして知られる村上アシシ氏は、決まった住所を定めずに半年働き、半年遊ぶ「ガチノマド」生活を実践中である。彼の元には今の働き方に疑問を抱きつつ、これからの方向性を探る若者からの相談が数多く来ているという。
港区だろうが足立区だろうが「住所なんか気にするな」
こんにちは、村上アシシです。僕は自分のライフスタイルを「ガチ(真剣勝負の)ノマド」と位置づけ、その可能性を探っているところです。今回は、「ノマド」に憧れていたけれど、最近「何を信じていいのか分からなくなった」と混乱している女性の疑問に答えます。
Q:アシシさん、もともとノマドって遊牧民という意味だったはずですよね。でもこの前、「ノマド的なあり方を追求する」と言っていた人が「青山にオフィスを構える夢がかなった!」と喜んでいるのを見て、無茶苦茶ショックを受けてしまいました。なんだ、ノマドなんて自分の名前を売るためのファッションだったのかって。やっぱり農耕民族の日本人には、しょせんノマドなんて無理なんですかね。(みーちゃん・26歳・フリー編集者)
僕はいま、この原稿をパリの友人宅に居候させてもらいながら書いています。日本にいるときは、札幌の実家に立ち寄るとき以外、基本的に都内のマンスリーマンションを転々としています。なので友人からは「マンスリーマンション難民」と呼ばれることもあります。
いつでも身軽に移動するために、モノは極力持たないようにしています。今回の3週間弱のヨーロッパも、機内持込ができるスーツケースと肩掛けカバンだけ。都内でマンスリーマンションを引っ越す際も、タクシーのトランクに全ての荷物が格納できます。こんな生活は、もう6年続いています。
モノを多く保有できないことは、多くの人にとって不自由なことかもしれません。しかしノマドは、物欲を捨て切ってこそ可能となるライフスタイルなんです。モノを入れるスーツケースの容量は有限ですが、「経験」を保有する心のキャパシティは無限大。経験は、どんなに保有してもかさばりませんしね。
特に20代30代のうちは、モノを持つ裕福さよりも、より多くの経験をすることに重点をおきたい。六本木の職場で働くときには、職住近接で六本木に住むこともありますが、住所が港区だろうが足立区だろうが何の価値もありません。そもそもノマドとは、住所不定なのですから(笑)。