iPhone5の発売が追い風となり、スマートフォンユーザーが爆発的に伸びている。さまざまなアプリを取り込んで自分に合った機能を充実していけるので、これまでのケータイ電話以上に肌身離さず携帯している人も多いだろう。
利用者の日常生活に入り込んでいくスマホに、ブランド価値を高めたい企業が熱い視線を送っている。一見本業とは関係のない生活アプリを通じて、ユーザーが自社のブランドイメージに触れる機会を増やしていけるからだ。
ユニクロが「目覚ましアプリ」を無料で提供する理由
ユニクロの「UNIQLO WAKE UP」は、目覚まし時計として使えるスマホアプリだ。コンセプトは「毎日の目覚めを快適にする」。今年5月に公開され、ダウンロード数は1か月足らずで50万を超え、企業アプリの大ヒット作となった。
設定した時間になると、コーネリアスと菅野よう子さんによるおしゃれなアラーム音楽が流れ、日時と曜日、その日の天気を自動的に読み上げてくれる。読み上げ言語は英語または中国語だ。音楽は毎回変わるので、新鮮な気持ちで目覚められる。
アラーム音楽を止めると、その時刻とともに天気や気温をフェイスブックやツイッターに自動的に投稿される。自分以外のユーザーの記録も、アプリ内で確認できる。
目覚まし機能自体は、ユニクロには直接関係ないように見えるかもしれない。しかしユーザーにとっては「今日は金曜日か」「肌寒いから、暖かくして行かなくちゃ」などとその日の服装を考えるきっかけとなり、そのときにユニクロのカジュアルウェアの存在を思い出すかもしれない。
また、スマホユーザーにとって欠かせないのが、端末機器への充電だ。トヨタの「PLUG-IN Championship」は、充電ケーブルを機器に接続するタイミングをスコア化するゲームアプリで、他のユーザーと競い合って遊ぶことができる。
コンセプトは「Fun to Charge=充電を楽しくする」。自宅でバッテリーに充電できるトヨタのプリウスPHV(プラグインハイブリッド自動車)のイメージを模している。退屈しがちな充電中もクールな映像で楽しめ、残りの充電時間を表示する便利なユーティリティツールとしての機能も果たしている。
トヨタ「ブランドとの心理的な距離を縮めるねらい」
アプリの企画開発を担当する会社、クリエイティブ・ラボPARTYは、このアプリのねらいについてこう説明している。
「充電という日常生活の『やらなければならない行為』をエンタメ化するユーティリティツールを目指しました。ユーザーに日常的に繰り返し利用してもらうことで、ブランドとの心理的な距離を縮め、親しみをもってもらうこともねらいとしています」
ランキングはグローバル、国別、都道府県別、市区町村別で、毎日、毎月更新され、3位以内に入るとメダルをもらえるゲームを持たせている。開発担当者によると、日常生活に入り込む企業アプリを企画するには、3つのコツがあるそうだ。
「利用シーンを絞りこむことと、繰り返し利用したくなるインセンティブや使い心地を設計すること、自分でも使いたくなるように納得できるまで練ることが必要です」
今後は同様の企業アプリが増えてくることが予想されるので、開発者として「まだ誰も攻め込んでいない日常を見つける」視点が大事になるという。
消費者のお財布の中身を奪い合う「ワレットシェア」のように、企業アプリによる「スマホ時間シェア」の争奪合戦がこれから起こりそうだ。(岡 徳之)