「カネは裏カジノなどのギャンブルで使い切った」
2012年9月26日に逮捕された横領犯(男性、52歳)は、警察の取り調べに対し、こう供述した。
彼は、名古屋市内の生コンクリート販売会社の営業担当をしていた1998年頃から、経理担当の女(57歳、同じく逮捕)と共謀し、10年余りにわたって会社から3億5000万円以上を横領した容疑がもたれている。営業担当者が取引先から回収した売掛金を、経理担当者が帳簿を操作して会社の口座に入金したように偽装し、そのまま着服していた。
悔やみきれない「ベテラン経理社員への任せきり」
おそらく女は経理一筋何十年、社長からの信頼も厚く、伝票や帳簿の作成、預金の出し入れなどをすべて任せされていたのだろう。どちらが持ちかけたのかは分からないが、営業と経理が結託するとは、社長さんは夢にも思わなかったのではないか。
最終的には、会社が不自然な会計処理に気づいたそうだが、時すでに遅し。2010年2月に会社は2人を懲戒解雇し、同年12月に刑事告訴したものの、おそらく犯人たちに弁済能力はないだろう。
この会社の売上規模は分からないが、最終利益率が10%として、本業で取り戻すには35億円の売り上げが必要である。社長さんにとっては悔やんでも悔やみきれない事件だ。
横領金のほとんどが裏カジノで浪費されたという点も見過ごせない。被害者である生コン販売会社には酷な言い方だが、同社のずさんな管理が、期せずして暴力団の懐を潤わせる結果を招いてしまったといえるからだ。
同じことは、以前取り上げた、キャバクラ嬢に会社のカネ6億円を貢いだ経理担当者の事件についてもいえる。先週、犯人には懲役7年の実刑判決が下されたが、貢がれた6億円はどこに行ったのか?
先日、6億円をだまし取った女の独占インタビューを、日本テレビが報じていた。顔を隠し声色を変えながらも、詐取したカネはすべてお気に入りのホストがいるホストクラブで使い切った、と悪びれる様子もなく話していた。この事件でも億単位のカネが裏社会に流れたと見ていいだろう。
小口現金やインターネットバンキングも要注意
官民一体となって「反社会的勢力との決別」を宣言し、昨年は全都道府県で暴力団排除条例が施行された。金融機関をはじめとして、各企業では取引先の「反社チェック(相手が反社会的勢力と関連があるかどうかを調べること)」を励行し、暴力団等の資金源を断とうと躍起になっている。
しかし、このような形で社員が横領した資金が「ダダ漏れ」になってしまっては、暴力団排除に向けた地道な努力が水の泡となってしまう。
そもそも、中小企業は、大企業に比べて内部統制などの管理にヒトとカネを投じる余力が少なく、横領のリスクにさらされやすい。中小企業のオーナーはその点を十分に認識する必要がある。
冒頭の事件は決して他人事ではないのだ。「うちは大丈夫か」という危機感をもって管理体制を見直す機会としたい。
どんなに頼りになる部下がいても、「カネ回り」を任せきりにしてはいけない。会社の規模が自分の目の届く範囲である限り、財布のひもはオーナーががっちりと握っておくべきだ。
取引先への集金は自分で行く。小口現金、預金通帳、小切手、届出印鑑、インターネットバンキングのIDやパスワードは社員にさわらせない。預金口座の動きは、毎日自分の目で細かくチェックする。それくらい徹底してもいいのではないか。
そうすることで、自分の会社を守ることができ、社会的責任も果たせるのだ。(甘粕潔)