日本人が海外で会社員として働くには、「日本企業の海外駐在員」として働く方法と、「現地採用の日系企業」で働く方法があります。就業者に求められるスキルは、大きく分けて次の3つです。
1.敬語を含むきちんとした「日本語力」と「日本式のビジネスマナー」
2.仕事のコアとなる営業力・技術力などの「専門スキル」
3.英語および現地語の「語学力」
今回は、それぞれの意味について確認していきます。
クライアントの「日本人駐在員の信頼」を勝ち取る
帰国子女の宇多田ヒカルは、デビュー当時に敬語が使えず「タメ口」で話していて、叩かれたことがありました。
日本語の敬語の細かな言い回しは非常に複雑で、外国人が完璧にマスターするのは困難です。しかし日本で長いこと働いてきた駐在員は、敬語ができない相手を「失礼」と判断することが少なくありません。
アジアの日系企業のクライアントには、まだまだ日系企業の割合が高く、意思決定権を持つのは日本人駐在員であることが多いのが実情です。したがって、彼らに「失礼」と思われずに信頼を勝ち取れる日本人スタッフが重宝されるわけです。
駐在員の信頼を得て受注を獲得したり、プロジェクトを円滑に推進するために必要となるのが、きちんとした敬語やビジネスマナー。これが、安く雇える「日本語が喋れる現地人」ではなく「日本人」を雇う理由のひとつです。
「なんだよ、せっかく海外に出たのに日本の文化かよ」
と思う人もいるでしょう。正直、私もそう思います(笑)。
しかし、いま現在で日本人が日系企業で働くときには、これが売りになっているのは事実であり、他の外国人よりも高給で処遇されるポイントです。せっかく売れるものは、売っておくべきです。
ただし、この「日本村のルール」が、いつまで売りになるのかは分かりません。日本語力を売りに給料をもらいながら、「専門スキル」や「語学力」を身につけましょう。スキルや語学力が上がれば、日系以外の外資系企業や、ローカル企業に転職することも可能です。現地で起業するという選択肢も見えてくるかもしれません。
日本語力を売りながら「スキル」と「語学力」を磨く
また、現地で就職するにあたって当然必要となるのが、コアとなる仕事のスキルです。「営業力」や「プロジェクトマネジメント力」「貿易実務能力」などであり、会社の利益に貢献するために最も重要になる部分です。これが先方の求めるものとフィットすると、給与も高くなる傾向があります。
仕事のスキル以外に、英語と現地語の能力も必要です。アジア海外就職では2012年現在、多くの案件で現地語ができなくても就業は可能です。
職種や国によっては高い英語力を求められる場合もありますが、現地人スタッフと業務上の意思疎通ができる程度の英語力を求められることがほとんどで、
「TOEICでいうと600~650点程度は欲しいかな」
と言われます(ただし英語が公用語のシンガポールや高い英語力を求められる職種では、当然もっと高いレベルが求められます)。
ただし問われるのはTOIECの点数ではなく、コミュニケーションがとれるかどうかです。多くの場合、英語面接で判断されます。現地語ができれば歓迎されますが、できる人の割合も低いので「あれば可」という場合がほとんどです。
企業から求められる「日本語力」や「専門スキル」「語学力」のレベルや重み付けは、会社やポジションによって変わります。若手のポテンシャル採用で「日本語力」と「語学力」があればOKという場合もありますし、コアな仕事を任せられる人には「コアスキル」と「語学力」が重視されることもあります。
何らかの形で2~3年は日本で働くことがオススメ
私個人としては、上記3つの能力がある程度のレベルに達してから海外に行くことをおすすめしています。新卒でいきなり行くのではなく、何らかの形で2~3年は日本で働き、マナーやスキルを身につけてから海外にチャレンジすべきということです。
また、現地語を身につけることは非常に重要ですので、渡航前でも現地で働きながらでも身に付けるべきだと思います。
アジア海外就職は、欧米海外就職と比べると、入社のハードルは低いといえるでしょう。なにより労働ビザの取得が容易です。しかしそれは、いまのところ働く権利を得るためのハードルが低いだけで、入ってから楽であるというわけではありません。
働き始めてからも、これから自分に何が必要かを常に考え、新しいスキルを身につけていくことが大切です。そして、新たなスキルを身につけることで、自分の取り得る選択肢の数が増え、自分がやりたい仕事に就くチャンスが増えるのです。
これは海外で働く場合に限らず、日本で働く場合にも言えることですけどね。(森山たつを)