老人向け、東洋人仕様の端末 日本メーカーの強み活かせないか

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   今年72歳になったAさんは、この8月から近所にあるパソコン教室に通いだしました。マスコミ関係の仕事に就いていたこともあり、かつて関わった仕事についての記録を残したり、日々の雑感を書き残しておくためです。

   Aさんが現役バリバリだった頃には、もちろんパソコンもインターネットもありません。取材や仕事のメモ、番組や映画の台本などは、かさばるばかりか、古びていくばかりです。

「そこで整理をしようと考えたんだけど、どうせならとパソコンに残すことにしたわけです」

ノートパソコンは重いし、スマホは入力しにくい

   はじめの1か月でだいたいのパソコンとネットの使い方を覚え、次の1か月で実地で利用しながら基本的なソフトの使い方をマスターしていきました。

「といっても、文章を書くとか、撮った画像を取り込むとか、あとはブラウザでネット状のサイトを閲覧するとか、まだまだ子どもレベルですよ」

   エンジニアに挑戦するということでもない限り、老人の日常生活なら、それぐらいできれば十分という気もします。

   そして、Aさんがいまもっとも悩んでいるのが、スマートフォンかタブレットコンピュータか、どちらを買うかということ。

「いまでもケータイは使ってるんだけど、外出先で思い出したり思いついたりしたことをまとめたり、昔の仕事仲間と会った時の画像をすぐに転送して保管したりということを考えると、どうしてもスマホかタブレットが欲しくなってね。それに、SNSっていうのをやってみたら昔の後輩なんかが結構いて、いろいろ相談したり、便利なんだよ」

   ノートパソコンだと老人の腕で持ち運ぶのは、ちと辛い。かといって、スマートフォンだとなかなか上手く文章が打ち込めない。

「慣れもあってかね、やっぱりキーボードの方が打ちやすいんだよね。年寄りは若い人みたいに大きなカバンは持たないから、タブレットコンピュータだと少しばかり大きい。スマホだと、逆にちょっと小さいかなっていう部分もあってね」

   微妙なサイズ感が、シルバー世代にとっては気になる様子。

「握力も視力も弱い人」のニーズを1から考える

   いまでは、手書きで入力できる機能やアプリが、スマートフォンやタブレットコンピュータにもあるので、それを使ってみる。来年には、アップルが小型のiPadを出してくるという噂もあるので、急ぎでなければ、それを待つのも手ではないですかと言うと、Aさんはこう返してきました。

「でもさ、アップルって外国の会社じゃない。やっぱりさ、日本人のことは日本のメーカーが一番良く知ってると思うんだよ。だから、日本のメーカーが日本の老人向けに、これだ!っていうのを出してくれるのがいいんだけどね。中国や韓国でもさ、どうせ老人がパソコンとかネットとか使うんだから、東洋人仕様っていうか、東洋人がいいと思えるような機能や性能を入れれば、輸出だってできるじゃない。どこかやらないのかねぇ」

   Aさんによれば、現状のスマートフォンやタブレットコンピュータから「引き算思考」で老人向けをつくるのではなく、「1から老人向けにつくる」というところにキモがあるそうです。

   言われてみれば、スマートフォンやタブレットコンピュータ、ノートパソコンにおいても、カテゴリーの細分化がもっとあってもいいかもしれません。重すぎず軽すぎず、握力や発声は弱っており、細かいものは見えにくいけど、パソコンとネットを使いたい。

   水泳全体では弱いけど、平泳ぎだけは凄く強い。そういったカテゴリーキングを目指すというやり方も、また一方であるのかもしれないと思った次第です。(井上トシユキ)

井上トシユキ
1964年、京都市出身。同志社大学文学部卒業(1989)。会社員を経て、1998年よりジャーナリスト、ライター。東海テレビ「ぴーかんテレビ」金曜日コメンテーター。著書は「カネと野望のインターネット10年史 IT革命の裏を紐解く」(扶桑社新書)、「2ちゃんねる宣言 挑発するメディア」(文藝春秋)など。
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