報奨金80億円! 内部告発は「おいしいビジネス」になるか

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不正を犯した者に「巨額のご褒美」を与えてよいのか

   従来、IRSは報奨金制度の運用に消極的であったそうだが、UBSの一件は、B氏による告発がなければ摘発できなかったことは事実であり、今回の支払いは、脱税を許さないというIRSのコミットメントを示したものだといえる。

   B氏への巨額の報奨金支払いは、今後、脱税に関する情報提供に拍車をかけることになるだろう。弁護士事務所にとっては「おいしい」ビジネスになるし、報奨金の支払いが確実な案件に対しては、ヘッジファンドが情報提供者に前払いをするケースもあるという。

   いかにも米国らしい合理的な考え方だが、これほど巨額の報奨金を、しかも自らが罪を犯した者に与えるのは妥当なのだろうか。個人的には大いに疑問である。

   日本においても、談合等を摘発するために、不正に加担していても「一抜け」してごめんなさい(証拠や書類をそろえて自己申告)すれば課徴金を免除するという「リニエンシー制度」がある。しかし、それは払うべきものを免除するのであって、不正を犯した者にご褒美を与えるのとは大きく異なる。

   数字の遊びではあるが、単純計算すると、B氏は時給4600ドル(36万8000円)で服役したことになるそうだ。さらにB氏は、獄中で受けたブルームバーグのインタビューにおいて、自分は犯罪者ではなく英雄として見られるべきだと語ったという。

   誠実な通報・告発を行った人であっても、残念ながら報復やいやがらせを受けて職を離れざるを得ない状況が生じる。そのような場合の補償的な意味合いでの報奨金は必要かもしれないが、億という報奨金は行き過ぎであろう。皆さんはどう考えるだろうか?(甘粕潔)

甘粕潔(あまかす・きよし)
1965年生まれ。公認不正検査士(CFE)。地方銀行、リスク管理支援会社勤務を経て現職。企業倫理・不祥事防止に関する研修講師、コンプライアンス態勢強化支援等に従事。企業の社外監査役、コンプライアンス委員、大学院講師等も歴任。『よくわかる金融機関の不祥事件対策』(共著)、『企業不正対策ハンドブック-防止と発見』(共訳)ほか。
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