残業代は会社にとってコストであり、従業員にとっても残業は長時間労働につながる厄介なものだ。「残業をできるだけなくそう」という動きもあるが、人員を切り詰めていることもあって、一人当たりの労働時間はなかなか減らない。
ある会社では、残業代に上限を決めて運用していたが、それを超える部分について社員間で現金のやり取りを伴う「貸し借り」が勝手に行われていた。管理職は黙認をしていたことも分かり、人事担当者が頭を悩ませている。
「こうでもしないとサービス残業になっちゃう」
――システム会社の人事です。当社ではコストダウンとコンプライアンスの観点により、1年前から「残業時間の抑制」を重点的に進めています。
一人あたりの時間外労働の上限を月45時間とし、それを超えないように徹底しています。達成率は、管理職の評価項目にも組み込んでいます。
そんな中、社員間で「残業時間の貸し借り」をしているという噂が耳に入りました。そこで、開発部の2人を呼んで事情を聞いたところ、いずれもそのような事実があったと認めました。
A君とB君は同じ開発担当ですが、それぞれ別のプロジェクトに携わっているので、繁忙期も微妙に異なります。A君が忙しくて残業時間が足りないときに、B君が比較的ヒマだったので「今月の残業時間、貸してくれないかな」と頼んだのがきっかけだそうです。
「残業時間を貸す」とは、A君に計上できない残業時間をB君に計上し、その分の残業代をB君からA君へ現金で払い戻す、ということです。A君は、
「こうでもしないと、残業時間をつけてもらえないし、サービス残業になっちゃうからですよ。会社としては、それだけ多くの業務があるんだから、それくらいの融通を聞かせてもいいんじゃないですか?」
と言っています。逆に、B君が多忙でA君から借りることもありましたが、いまのところトラブルにはなっていないようです。
開発部の部長も、この事態を知っていましたが、「達成率」を優先して黙認していたようです。本人たちは特に困ったことはないようですし、放置してよいものでしょうか――