無類の営業嫌いが気づいた「初めての仕事のやりがい」

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   「焼畑営業」という言葉があります。訪問件数や売り上げだけを重視し、客先で調子のいいことを並べてセールスマシーンのように売りまくり、契約を締結したらパタッと顔を出さなくなる営業のことです。

   私も入社1年目は、そんな「焼畑営業マン」のひとりでした。2年目にオフィスの移転があり、机の上に雑然と並んだ名刺を片付ける必要がありました。当初は五十音順に並べようと考えましたが、いい機会なので分類をしてみることにしました。

A:今後も仕事でつながりが見込める人(「仕事」カテゴリー)
B:個人的にまた会いたい人(「知人」カテゴリー)
C:おそらく二度と会わないと思える人(「不要」カテゴリー)

500枚の積みあがった名刺の行方は…

   その数、およそ500枚。「この1年で結構な人に会っていたな」「顔が思い出せない。どんな人だっけ?」などと脱線しながら、2~3時間は続けていたと思います。

   しかし、結果は何ともガッカリするものでした。Aの「仕事」は30枚、Bの「知人」は10枚のみ。残りの460枚は「不要」のカテゴリーに入ってしまったのです。

   入社前から営業の仕事に嫌悪感を抱いていた私は、雑念を追い払うように、ひたすら訪問数を増やして注文を取ることに専念していました。お客さまに「自分のことを相手に分かってもらいたい」という気持ちなんて微塵もありませんでした。

   新規開拓で注文を取った会社も、50社以上あったはずです。ところが、次の仕事につながるような付き合いが見えてきませんでした。大きな成果を上げたものの、自分のやってきたことがとても単調で空しいものに思えたものです。

   注文は取れても、自分は何も成長していない。得るものを感じることができない毎日が続いていました。これから先もそんな繰り返しが待っているとしたら、「いくら注文が取れても耐えられないな」と感じ始めていました。

   その空しさを象徴するのが、不要のカテゴリーに積みあがった名刺の山。「どうせ同じ時間を過ごすなら、有意義に過ごしたい」――。そのとき、営業スタイルを変える決意をしました。出会った人と「次につながる営業」を心がけることです。

「相談」と「笑顔」あってこそ

   「何回も注文がいただける関係になる」「取引先を紹介いただける関係になる」「仕事抜きでも付き合える関係になる」という3つの営業を目指すことにしました。トークも、いきなり価格と機能の話をするのではなく、試行錯誤の末、自分の仕事をお客さまに分かってもらえるよう心がけました。

   そして、かつて1度だけ取引のあった東京・文京区の医療機器商社を半年振りに訪ねて、こんな形で切り出してみました。

「入社して1年間、文京区を担当して50社以上のお客様と仕事をさせていただきました。商品・サービスだけでなく、情報通信業界の動向はそれなりに押さえている自負があります。お気軽にお尋ねいただけましたら光栄です」

   するとお客さまは「そんなに実績があるとは知らなかった」と驚き、「ひとつ相談したいことがあるんだ」と笑顔で打ち明けてきました。これは、私にとって「事件」でした。振り返れば「商品を注文するかしないか」の返事にばかりに固執していた私は、それまでお客さまの笑顔を見る余裕もなかったのです。

   「相談」という言葉をいただいたのも、実は初めてのことでした。「関西に支店を出すのだが、お宅でサポートできるか?」。もし商品紹介に終始していたら、お話をいただくことはなかったでしょう。営業をしていて、初めて「うれしい」「この仕事をやっていてよかった」と感じた瞬間でした。

   このやり方を他のお客さまへも試してみると、「笑顔の相談」が舞い込んでくるようになりました。名刺の整理をきっかけに浮き彫りになった、営業スタイルへの反省や「相手の役に立ちたい」という願い。それをうまく示すことができれば「お客さまとの関係」は劇的に変化するに違いありません。(高城幸司)

高城幸司(たかぎ・こうじ)
1964年生まれ。リクルートに入社し、通信・ネット関連の営業で6年間トップセールス賞を受賞。その後、日本初の独立起業専門誌「アントレ」を創刊、編集長を務める。2005年に「マネジメント強化を支援する企業」セレブレインの代表取締役社長に就任。近著に『ダメ部下を再生させる上司の技術』(マガジンハウス)、『稼げる人、稼げない人』(PHP新書)。
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