内部通報が信用されなければ告発は外部に漏れる
A氏の弁護団も「内部告発が密告と言われる日本で、告発者保護の観点から一定の前進があった」と大阪地裁の判決を評価している。今回の判決は、橋下知事が力説したスタンスの適切性を裏付けたともいえる。
ところで大阪市は、公益通報者保護法が施行された2006年4月に、組織内に通報窓口を設置しており、その後、外部窓口も設けている。A氏はなぜ、マスコミ等に直接告発せざるを得なかったのか。
テレビのインタビューに対してA氏は「こうするしかなかった」と語っている。上司である所長に是正を求めたが、状況が変わらず危機感を抱いたそうだ。内部通報窓口を使わずに外部へ告発したのであれば、適切なやり方ではなかったとも言えるが、当時の職場の風土は、それほどまでに信用の置けないものだったのかもしれない。
先月13日に消費者庁の「行政機関における公益通報者保護法の施行状況調査」によると、大阪市が昨年度受理した内部通報の件数は561件であり、政令指定都市の中で断トツである(2位は神戸市の33件)。
個人的な不満なども少なくないのかもしれないが、「通報者を守る」という橋下市長の姿勢が職員に伝わり、組織内で声を上げやすくなったのであれば、一歩前身である。これを一過性のものとせず、一つひとつの声に耳を傾け、組織風土の改善に活かしてもらいたい。
内部通報に対しては、まずは組織のトップが寄せられる声を厄介払いせず、自分の知らない問題を指摘してくれる有難いものと考えることが必要だ。その姿勢が職員に伝われば制度への信頼感は高まり、組織の自浄機能も強化される。A氏のように、思い余って盗撮ビデオをマスコミに渡す事態も防げるだろう。(甘粕潔)