1年間続けさせていただいたコラムも、今回で最終回となりました。今までお付き合い下さり、本当にありがとうございました。実は連載を始めた時から、最終回はこのお話を書こうと決めていました、今回は「信用」についてのお話です。
もう十何年も前の話ですが、私の先輩がまだ支店で働いていた頃、こんなお客さまが来店されたそうです。まだ昼間なのにお酒の匂いをぷんぷんと漂わせて、お店に入ってきた50代位の男性。カウンターにどしりと座ると、「お金を借りたい」と申し入れたそうです。
救急車も助けてくれなかった「信用のない人」
ところが、このお客さまは過去に長期の延滞の記録があり、カードは使えない状態になっていました。応対をした先輩がそのことを説明すると、男性はいきなり大声を上げてわめき散らし、お店の備品を蹴り飛ばして外に出て行ったそうです。
先輩たちがやれやれと後片付けをしていると、突然、お店の外が騒がしくなりました。先ほどの男性が、お店のあるビルの目の前で倒れているというのです。
あわてて外に出てみると、倒れている男性の側にはワンカップが転がっていました。酔っ払って転んだのか、急性アルコール中毒かもしれません。先輩は急いで救急車を呼びました。
ところが救急車は来てくれませんでした。十何年も前のことなのでどうして救急車が来なかったのか理由は定かではありませんが、どうやらその男性は救急車で担ぎ込まれて、病院代を踏み倒す常習犯だったらしいのです。
救急車を断られてしまった先輩方は、市区町村の境目までその男性を連れて行き、隣町の病院に連絡をして救急車を呼び、男性を運んでもらったそうです。
「信用のない人は、救急車も助けてくれないんだなぁ…」
ぐったりとしている男性を担ぎながら、先輩はそう思ったそうです。
ちゃんと回収していれば、と苦々しく思い出すことも
もしかしたらこのお客さまも、初めはうっかりの延滞だったのかもしれません。でも、その延滞から遅れることへの抵抗が薄れていき、いつしか代金を踏み倒しても平気な人になってしまったのかもしれない。
最初にちゃんと督促をして、お金を回収していれば、ここまで信用を失うようなことにはならなかったんじゃないのか…。そう思うと先輩は、今でも苦々しい気持ちになるそうです。
改めて言うまでもありませんが、クレジットカードのクレジットは「信用」という意味です。その人に信用があるからカード会社はお金を貸したり、買い物の代金を立て替えたりすることができます。
ただ、私たちが督促をしているお客さまのように、一度立て替えた代金を入金いただけない場合、信用はどんどん低下していきます。
お客さまが長期にカードを延滞した場合、カード会社が加盟する信用情報機関に延滞の報告が行きます。そしてその結果、他の会社のカードも使えなくなってしまったり、その後のローンの審査が降りなくなってしまう場合があります。
信用とは「有事に命を助けてくれる」もの
お金だけではありません。飲み会の代金を払わない、約束を破る、待ち合わせに遅刻をする、相手に悪い事をしたのにちゃんと謝罪しない――。こういったことでも「信用」というのは簡単に失われていきます。
話は変わりますが、戦時中のちに吉田茂の懐刀と呼ばれた白洲次郎に召集令状が出た時に、当時の東部軍参謀長であった辰巳栄一は、あの人は戦場で死なせていい人ではない、と直前で赤紙を差し押さえたというエピソードがあります。
信用とは、究極的には有事にどれだけの人があなたの命を助けてくれるのか、ということなのかもしれません。
どうか信用を大切にしてください。カードの延滞なんかで、信用を損なわないでください。信用はお金で損なわれることが多いのに、お金では買い戻せないのです。そのことを少しでも伝えることができたなら、私は本当に幸いに思うのです。(N本=えぬもと)