「N本さん、ちゃんとお客さまに入金の約束してもらわなきゃダメじゃない!」
「す…、すみません…」
カード会社のコールセンターで督促OLを始めたばかりのころ、私は上司によく呼び出されていました。私の回収成績が著しく悪かったからです。
お客さまに約束を取りつけ、それを守ってもらって入金にする。私たちの成績はそれによって決まります。ですが私は、お客さまに入金を守ってもらう確率(履行率)がコールセンターの平均6割よりずっと低く、5割に満たないほどだったのです。
コワモテ男性に挟まれても強くは言えず…
そもそも私が働き始めたころ、コールセンターには女子社員がほとんどおらず、督促は男性社員によって行われていました。その中に放り込まれた私は、男性社員のようにお客さまに強気に出ることができず、入金の約束を破られ続けていたのです。
「今度からEさんとTさんの間の席に座ってもらうからね! 二人の交渉を聞いてよく勉強して!」
「はい……」
私はコワモテの男性社員の間の席に移されました。でも、オセロじゃないんだから両隣をコワモテ男性で挟んだって、いきなり強く言えるようにはなりません。私はその後もお客さまに言い負かされ続けました。
「なんとかしなきゃなぁ…」。ほとんど伸びない回収成績を前に、私は頭を抱えていました。そんな時、1冊の本に出会ったのです。それは心理学の名著とされるスーザン・フォワード著「ブラックメール―他人に心をあやつられない方法」という本でした。
その中には、人がついつい動かされてしまう3つの感情が紹介されていました。その感情とは「恐怖心」「義務感」、そして「罪悪感」だと言うのです。
(あれ? これってなんか…、督促で使ってるかも…)
「借金=怖いお兄さんが来る」というイメージがあるように、昔はお金の取り立てと言えば「恐怖心」を使っていました。しかし今では貸金業法によって厳しく規制されていて、少しでも相手を威圧するようなことを言うと罰せられてしまいます。
それでも、「入金いただかなければ、今後お金が借りられなくなりますよ」とご案内するのも、ある意味恐怖心を刺激しているように思えます。