大事なお願いごとから、感謝の気持ちを伝えるお礼まで、ほとんどのメッセージをメールで送ることが許されるようになった。「同じ言葉には変わりがない」なら、相手の都合で読んでもらえるメールは確かに便利だ。
一方、依然としてアナログのメッセージを送る人もいる。「商売心理学の達人」と称するファーストアドバンテージ代表の酒井とし夫氏は、手書きの「相田みつを式お礼状」を年間2000枚も出して、講演のリピート依頼を得ることに成功しているという。
筆ペンで下手ウマのデカイ文字を書いて一丁あがり
「相田みつを式」を紹介しているのは、2012.9.17号の「プレジデント」。お客の心をわしづかみにし、50円で営業訪問と同じ効果を生み出すハガキのコツは次の4つだ。
1つ目は「必ず筆ペンを使用」すること。太い文字の方が上手に見えるので、ぺんてるの「つみ穂」という筆ペンの先を、さらに1ミリほどカットして太くする。筆ペンを使うのは、文字数が少なくてもボリューム感が出せるからだ。
2つ目は「吹き出し枠からはみ出す」こと。ハガキには文章を書き込む枠をあらかじめ印刷しておくが、そこからあえて字を大きく飛び出させることで、相手に「メッセージをたくさん書いてもらった」という気にさせる。
3つ目は、字を下手ウマに見せる「逆三角形」にすること。酒井氏は、相田みつを氏のカレンダーにコピー用紙を置いてなぞる練習を100回くらいしたそうだ。4つ目の「漢字は大きく、ひらがなは小さく」も「相田風」の法則といえるだろう。
ハガキには、住所と名前、顔写真と「ありがとう」の言葉をあらかじめ印刷している。あとは筆ペンで「わざと小さめに」作った枠からはみ出して書けばいい。これなら年間2000枚でも負担は最小限で済む。内幕を知ると興ざめしてしまうが、酒井氏は、
「(このような)手紙ならば相手に好印象を与えながら営業訪問に何度も行っているのと同じ効果を生み出します」
と胸を張っている。
文字には「思い」が込められるものなのか
同じ会社が運営するダイヤモンドオンラインには、藤田康人氏(インテグレート代表)が連載コラムに、若いビジネスマンから直筆の手紙をもらった感激を書いている。
「手紙では、文字にも思いが込められるのだと、改めて感じました。電子メールの画一化された文字でばかりでコミュニケーションをしている私たちは、知らず知らずのうちに自分の個性、感性を失ってしまっているケースが多々あるのではないでしょうか」
どうやらダイヤモンド社は、手書きが好きで、デジタルがあまりお好みではないらしい。紙の出版社であることや、読者が中高年ということも関係あるのかもしれない。文字で「思い」が伝わるのなら、履歴書も手書きにさせた方がいいのではないか。
酒井氏の「コツ」を読んだ後では、藤田氏が賞賛する「若いビジネスマン」も、自分を売り込むことに腐心する姿が透けて白けてしまう。「重要なのはメッセージの中身じゃないの?」と思うのは、ドライすぎる考えだろうか。