相手が「先生」だからといって遠慮する必要はない
「まさか、この人が…」
「少し借りるつもりで、つい…」
という構図は、横領が発覚する銀行員と同じだ。信用第一の銀行員がまさか自分のお金に手をつけることはないだろうという意識が、顧客のチェックを甘くし、横領の機会を誘発してしまう。
弁護士に対する信用をこれ以上傷つけないために、何をすべきか。再発防止のキーワードは“Trust, but Verify”、つまり「信頼はしても任せきりにしない」ことである。
まずは依頼人の自衛策が求められる。依頼前にインターネット等で弁護士の風評や費用の相場などをできるだけ確認する。そして依頼後も任せっぱなしにせず、預け金の管理状況を厳しくチェックする。
預け金はその名のとおり弁護士に預けてあるだけであり、依頼人の資産なのだから、チェックするのは当然の権利だ。相手が「先生」だからといって遠慮する必要はない。
まとまった額を預ける場合は、依頼人名義の専用口座を開設し、入出金状況を逐一報告させることはできないか。弁護士側としても、それくらいの明朗会計サービスをすれば差別化できるのではないか。
弁護士会の役割も求められる。福岡県弁護士会は2007年ころ、すでにTが「自転車操業」状態であることを察知していたが、適切な対応を取らなかったと批判されている。2011年3月と11月にも、所属弁護士による過払い利息返還金等の横領事件が発覚している。
弁護士会は弁護士法により、所属弁護士(法人)に疑わしい行動があれば事実確認のうえ必要な懲戒処分を行う義務を負っている。特に不正リスクの高い預け金などを中心に、抜き打ちも含めた監査を強化する必要があるだろう。(甘粕潔)