化粧品の通信販売で知られる再春館製薬所には、ユニークな食堂がある。社員食堂といえば、社外の業者にアウトソーシングするのが一般的だが、ここでは会社が雇った地元熊本の「お母さん」たちに、手作りの料理を提供してもらっているという。
食堂の設置は1992年。当初の運営は業者に依頼していたものの、当時の西川通子社長(現会長)のおメガネにかなわなかったらしい。西川さんが自ら厨房に立ち、自宅のお手伝いさんとともに食堂の切り盛りをすることにした。
働きざかりの若者たちに「栄養価の高い料理」を提供
西川さんは自ら決めた「1か月半は同じメニューを出さない」というルールを守っていたが、半年後に地元の「お母さん」たちに運営を任せることにした。その「厨房隊」は、いまでは25人ほどになる。
彼女たちは長年にわたる経験から、家庭料理のプロと呼べる腕前の人ばかり。メニューは冷凍食品を使わず、すべて手作りである。「海」「山」「根」「茎」「葉」「実」の素材を毎日必ず使うことを決めており、栄養価も高くバランスのよい食事となっている。
ランチはバイキング方式で、メイン料理も副菜も、ごはんも汁物も、すべて食べ放題だ。料理をあまり取らない社員がいると、西川さんに、
「もっといっぱい盛りなさい。しっかり食べて栄養をつけなきゃ」
とハッパをかけられることもある。
社員の中には、県外から来て寮やアパートでひとり暮らしをする若者も多い。ランチくらいは温かく、栄養たっぷりの料理を食べてもらいたいという思いが込められている。
コールセンターなどで働く女性社員が約800人いることもあり、デザートにも力が入っている。西川さんはレパートリーを増やしてもらうため、「厨房隊」を地元のお菓子メーカーに派遣した。いまでは60数種類のデザートを作ることができ、同じものは2か月に1度しか出ない。
漢方薬メーカーが掲げる「医・美・食同源」の考え
取材で訪問した日は、メインが鶏のから揚げ、副菜にごぼうサラダ、もずく和え、煮しめ、冷や奴、汁物はみそ汁、デザートにオレンジゼリーが出た。
から揚げは人気メニューらしく、皿いっぱいに盛り付けている男性社員を多く見かけた。「厨房隊」が追加で忙しく揚げ続けている。細かく刻んだ玉ねぎソースには肉をやわらかくする効果があるそうだ。とても美味しくて、つい7個も食べてしまった。
煮しめは、前日に照り焼きを作った残り汁で煮ていて、鶏の脂がぎゅっと染み込んでいてコクがある。他のメニューも、どれも懐かしさを覚える「おふくろの味」だ。デザートもプロ級である。
再春館製薬所は、もともと漢方の製薬会社ということもあり、社員の健康にとって食事が重要な要素という考えがあるという。食堂のレシピをまとめた『再春館製薬所 ニッポンいちの社員食堂』(主婦の友社)という本には、「医・美・食同源」という言葉が掲げられていた。(池田園子)