「いいお客さまでも、お金がなくなると人が変わる」
督促は今、ほとんどの会社がコールセンターで一括して行っていますが、以前は支店で他の営業や審査といった業務の中の一つとして行われていました。
私は延滞したお客さまとしか接したことはありませんが、支店を経験している先輩は、一人のお客さまがカードを申し込みに来て、審査をして融資をして延滞をする、その過程をずっと見続けていたのです。
「どんなにいいお客さまでも、お金がなくなると人が変わるの」
「そ……、そうなんですか……」
確かに「借金がある」ということは、とにかくストレスフルな状態です。そんな状態でしつこく督促の電話がかかってきたら、電話口のオペレーターを怒鳴りつけたくなるのも仕方ないのかもしれません。
「支店にいた時に、お金を借りに来る時に必ず女子社員にケーキを持ってきてくれる優しいお兄さんがいたんだけど、途中で仕事がうまくいかなくなったみたいで、最後は私たちを怒鳴りつけるようになっちゃったの。お金は人を変えちゃうのよね」
先輩は遠い目をして言いました。世の中、お金より大事なものもあるのかもしれませんが、やはり人間優しくなるためにはお金が必要なんだなぁと、この業界にいると痛切に感じてしまうのです。
会社に決められた応答率や、お客さまの心理状態のせいで、オペレーターが悪くなくても怒鳴られることが多くあるこの仕事ですが、督促を始めて随分と強くしてもらった気がします。人間修業には事欠かないお仕事だなぁ、と思いつつ、私は今日もコールセンターで怒鳴られながら督促業務を行っています。(N本=えぬもと)