12年3月期決算で赤字転落した大手電機を中心に「リストラ」という言葉がとびかっている。シャープは5000人の早期退職を打ち出したが、まだ上積みを検討中だという。昨年末に5000億円の早期退職費用を計上したパナソニックは、これから早期退職を中心に人員削減を本格化させるはずだ。ソニー、NECといった赤字組も後に追随すると思われる。
とりあえず、各社ともに人件費は圧縮できて、単年度ベースでは黒字化も達成できるかもしれない。でも、果たして長期的には業績は回復するのだろうか。
「終身雇用」だから優秀な人材から辞めていく
日本は「終身雇用」の国だ。だから、少なくとも大企業においては、解雇は倒産寸前まで認められておらず、企業はせいぜい早期退職の募集をするしかない。電機であれば、勤続15年以上、退職金年収2年分上乗せといったところが相場だろう。
だが、早期退職で組織の生産性が上がるかといえば、むしろ下がるのが現実だ。仮に、企業にとっての戦力が100のA氏と、50のB氏、10のC氏がいたとする。早期退職の募集に際して、企業は本音ではC氏に辞めてほしい。
でも、実際に手を上げるのはA氏だ。なぜなら、A氏は恐らくどこへ行ってもそれなりの戦力になり、引く手あまただろうから。もちろん、その引く手の中には、台湾や韓国といった新興国の若い企業も含まれる。
実はA氏のような優秀な従業員のもとには、平時からヘッドハンターからのオファーが届いているものだ。でも、平時ならそれには応じない人が多い。慣れ親しんだ日本から出るのは面倒だし、家族の暮らしもある。
なんといっても、終身雇用の組織にいれば、定年まで安定した雇用が望める。年俸1500万円のオファーを貰っても、トータルでみれば今の会社に残った方がトクだろう。そう考えて、オファーを断っている日本人技術者は少なくない。
そんな中、「早期退職制度」というのは、大赤字に苦しむ親会社が、数千万円を外資のオファーにわざわざ上積みして「もう日本はいいから、海外で頑張ってこいよ」と後押しするようなものだろう。