中堅商社で働くAさんが、この春に別の商社に入社したBさんと久しぶりに食事をした。BさんはAさんの3歳下で、同じ大学のサークルの後輩。仕事に慣れようと頑張っているが、最近納得いかないことがあったという。
それは仕事に備えて、会社に朝早く来なければならないこと。いまは始業30分前に来ているが、課長から「1時間前に来い」と叱られたという。Bさんはこうこぼす。
「始業前に出社しろはおかしい、なんて子どもみたいなことは言わないですよ。でもね、むやみに早ければいいってもんじゃないと思うんですよ…」
始業前に「個室」にこもる先輩社員に憤慨
課長が叱る理由は「お前より早く来ている先輩のCがいる。仕事を覚えなきゃいけない新人のお前が、なぜ彼より遅く出社するのか?」ということらしい。しぶしぶCさんより前に出社することにしたが、そこで「事の真相」を知ったという。
「確かにCさんは、1時間ほど前に『おはよー』と出社してきます。でもね、すぐに席を外して行ってしまうんですよ」
Cさんは、パンと缶コーヒー、それにマンガ雑誌などを持って、トイレに引きこもってしまう。その時間は30分近くになる日もあった。つまり、出社は早いが、始業前の多くの時間を「個室」で過ごしているようなのだ。
「ビックリしましたよ。僕は朝早く起きて自宅で食事を食べて、新聞2紙に目を通し、ちゃんと用を足してから出社している。なのにCさんは何の準備もせずに家を出て、ぜんぶ会社でやってるんですから」
要するにBさんは社会人たるもの、トイレの「大」は自宅で済ませてくるものだ、と言いたいらしい。Aさんが、催す時間は人によって違うだろうと言っても耳を貸さない。
「僕だってね、最初は出ませんでしたよ。でも、前の晩にヨーグルトや納豆などの発酵食品を摂ったり、水を飲んでから寝たり、朝起きて軽くストレッチをするとか、僕なりに工夫してるんです。Cさんは明らかにおかしいでしょう?」
エスカレートする完璧主義「トイレの時間も聖域ではない」
Cさんには大きな罪はないと思うが、課長がCさんと比べて叱ったことが、よほどショックだったようだ。Bさんの怒りは収まらない。
「だいたいタバコ休憩とか、お茶を入れたりお菓子を食べたりするのだって、おかしいんですよね。そんなのは仕事中にすべきじゃない。トイレの時間だって聖域のように思われているけど、実はコントロールできる部分もあるんですよ」
最初は「彼は社会人の厳しさに慣れただろうか」と心配していたAさんだったが、Bさんの完璧主義に驚いてしまった。
あまりの剣幕に「そう堅いことを言うな。お前も会社で用を足すことにすればいいんじゃないか?」となだめたが、「もし全社員が同じことをしたら、会社のトイレに入りきれなくなりますよ」と反論されてしまった。
Bさんはいま自分の上司に頭に来ているが、Bさんが管理職になったら部下たちは非常に苦労するだろうな――。Aさんはそんな感想を持ったという。