間接部門の人員が手薄になりがちな新興企業
発覚のきっかけは、取引銀行の支店担当者からS社への一報だった。同支店では、6月27日に2000万円、29日に4000万円と立て続けにAから小切手現金化の依頼を受け、不審に思ってS社に電話で確認したのである。
Aの大胆な犯行を許したのは、次のような状況で経理の内部統制が無力化していたためといえる、
・Aは部長とシニアマネージャーを兼務しており、財務・経理グループには他に管理職がいなかった
・小切手帳はAが保管し、銀行届出印は部下が保管していたが、業務時間中は届出印保管場所の鍵が開けっぱなしで、Aは自由に使用できた
・社内ルールでは「小切手を現金化するのは、小口現金が不足した場合のみ」となっていたが、部長であるAはそれを無視できた
・内部監査は定期的に行われていたが、預金関連の監査は、2006年12月以降は行われていなかった
・取締役会での経理関係の報告は、Aが自ら行っていた。しかも、社長以外はすべて社外取締役であった
この事件で1億7000万円の特別損失を計上したS社は、経費削減や売上原価コスト低減などを迫られ、従業員や下請業者にも多大な負担を強いるだろう。
新興企業においては、経理や監査などいわゆる間接部門の人員が手薄になりがちであるが、一度このような事件が起きると、ロスを取り返すにはその何倍もの売上が必要となる。損失防止への適切な投資も欠かせない。(甘粕潔)