ネット全盛時代にあっても「紙のカタログ」の人気は衰えていない。起動時間はゼロだし、電源も不要。パラパラと斜め読みできるし、写真印刷の手触りも捨てがたい。
店の出入口に置いておけば、お客さんが自分から持っていってくれるし、家族でも共有してくれる。「ウェブなら情報が無限だし、お金もかからない」はずなのだが、そこに誘導するのは簡単ではないし、紙には紙のよさがある。
とはいえ、紙のカタログに掲載できる情報量には限界があり、多くの情報を盛り込もうとすると分厚くなって手に取ってもらえなくなる。そこで考えられるのが、紙とスマホアプリのハイブリッド(混合)という方法だ。
スマホをかざすと棚の中が透けて見えるしかけ
イケアの2013年版カタログは、そんな「ハイブリッド」を実現した一冊である。スマートフォンに専用アプリを入れて、カタログにかざしてみると、カメラが読み込んだ紙面の上に、新たな情報が付加されて画面に表示される。AR(拡張現実)というやつだ。
ソファのページでボタンを押すと、動画の再生が始まり商品の補足説明をしてくれる。棚のページでは、扉の中の様子が透けて見える。ARを意識させるようなマークは特にないが、気になった商品に気軽にかざしてみたくなる。
まるで、イケアの店舗で気になった商品を見つけてから、店員さんに声をかけて商品の詳しい情報を聞きだしているような感覚だ。さりげなく教えてくれる補足情報を聞きながら、自分のニーズに合っているか確認できるのである。
くぼみが4つあるユニークなテーブルの写真にスマホをかざすと、コーディネート例が3種類表示される。おそらくテーブルだけをいくらキレイに撮影しても、どうやって使えばいいのか分からず、なかなか買おうとは思わないだろう。
しかし、くぼみの中に鮮やかな色の文具を入れた写真を見れば、「うちでもこんな風に使えたら素敵だなあ」と心が動くのではないか。
真似はできないが参考にする方法はある
イケアの店舗では、販売員が商品説明をするために積極的に話しかけてくることは基本的にない。商品のコーディネート例がブースごとに並んでいて、それを見ながら買い物客はイメージを膨らませていく。カタログ上でもそんな押し付けがましくない「接客」を受けられる。
イケアは以前からARを使ったユニークな取組みをしていた。2009年版のカタログでは、同封されたARマーカーを床に置き、スマホの画面をのぞいてみると、自分の部屋に家具が出現するという、まるで映画に出てくるような仕掛けを施した。紙のカタログとスマホを組み合わせることで、そんな「体験」ができるのである。
これらの技術は、おそらくいろいろな業種で応用が利くと思われる。ただ、リッチな動画の制作やアプリ化には多大なコストがかかり、どの会社でも真似できるわけではない。まずはYouTubeなどに商品説明の動画を置き、カタログにURLを記載して閲覧するところから始めてもいいのかもしれない。
数年前に、テレビCMからネットへ誘導するために「続きはウェブで!」という言葉が流行った。紙のカタログを配布して情報を見てもらい、付加情報をデジタルで入手してもらう「続きはスマホで!」戦略は、まだまだ開発の余地がありそうだ。(岡 徳之)