リクルートでトップ営業を続けた高城幸司氏は、月刊誌の編集長となり、独立してコンサルティング会社を経営している。銀行で営業に異動になった大関暁夫氏は、広報部門を経て支店長となり、会社経営のかたわら街おこしの仕掛人として活躍している。
ふたりとも、営業のキャリアが自分の可能性を広げてきたと感じている。どうしたら、厳しいといわれる営業の仕事を前向きに取り組めるのか。その秘訣は「自分は会社を背負っている」という意識や視点だという。
自分が楽しいと思える職業名をつけてみれば
大関暁夫(おおぜき・あけお)スタジオ02代表。「青山カレー工房」などの事業オーナーと企業コンサルティング、埼玉・熊谷の街おこし「くま辛」など多忙な日々を過ごす。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。J-CAST会社ウォッチで「営業は難しい〜ココを直せばうまくいく!」を連載中
高城 昔、フジテレビ系で『愛という名のもとに』(1992年)というトレンディドラマがありました。
大関 ええ、浜田省吾が主題歌を歌ったやつですね。
高城 あそこで、チョロというあだなの登場人物が証券会社の営業マンで、真面目なんだけど成績が伸びなくて上司から罵倒されていました。それでチョロが落ち込んで、横領と傷害事件を起こして自殺しちゃう。営業という仕事のイメージが悪いのは、ああいう取り上げられ方もあったのかもしれない。
大関 それは、昔の会社のマネジメントの悪さですね。ハラスメントは以前よりも減ったと思いますが。確かに、肉体的、精神的なタフさが求められる場面はあるけれど、実際にやってみれば気合いと根性だけではどうしようもなく、頭をひねらなければならない仕事だと分かると思います。
高城 不人気の理由は「営業」という名称も関係あるようですよ。実際、ある求人広告で、職種を営業から「企画営業」に変えたら、応募者数が増えたそうです。
大関 営業と呼ばれることが、そんなにイヤなんですか。でも確かに銀行でも、営業といえば店内の窓口のことで、外回りの営業は「渉外」と言っていました。意識としては、営業よりも少し高級な感じがしました(笑)。
高城 営業がそんなにイヤだったら、名前を付け替えちゃえばいいと思うんですよね。自分が楽しいと思える職業名を、勝手につけてしまえばいい。果敢に攻めている感じが若い人たちにとってはイヤで、現実逃避をしたいのなら、一歩引いた仕事をしていると思える職業の意識を持たせればいい。
大関 そんな下らない理由で嫌いになるな、ではなく、「そんな理由なら変えればいい」というのも新鮮ですね。若い人たちが好みそうな「コンサルタント」とかはどうですか。
高城 いいでしょう。リクルートで「求人広告の営業」をしている人に、どんな仕事をしているのか聞くと、「お客さまの人材採用のお手伝いをしている」と答えますよ。やっていることは同じなんですけどね。
大関 マーケティング担当や、カスタマーリレーション担当でもいい。中身から言って、お客さんの役に立つように商品をはめ込んでいく「商品コンサルタント」という言い方も十分できる。ソリューションという言葉も使えそうです。
意識や視点が変わると断られても落ち込まない
高城幸司(たかぎ・こうじ)セレブレイン代表取締役社長。リクルートの通信・ネット関連営業で6年間トップセールス賞を受賞。その後、日本初の独立起業専門誌「アントレ」を創刊、編集長を務める。J-CAST会社ウォッチで「『稼げる人』の仕事術」を連載中。近著に『入社1年目を「営業」から始める君へ』(日本実業出版社)
高城 私は営業の後、『アントレ』という雑誌を創刊して自ら編集長になり、入社時の希望を半分果たすことができました。でも、編集をやってみると仕事の多くは営業なんですね。営業という仕事からキャリアを始めて、本当によかったと思いました。
大関 私も営業の実績を積んでから、本社の広報担当になったのですが、広報もまさに営業です。そもそも社内営業を含めて、待ちの姿勢で済む仕事なんてありませんけど。
高城 ところで「営業は自分を売っている」という言葉がありますが、私はこれを僭越な考えと思い始めています。そういう意識は会社の教育や管理を否定しますが、それでは人を育てられないし組織としても成長できない。
大関 しかし「モノを売っている」というのも不十分でしょう。
高城 では、どう考えればいいかというと、「自分は会社を背負っている」という意識が必要なのではないでしょうか。営業は、自分の会社の社長のつもりでお客さんに接して欲しいと思います。
大関 実際に客の立場としても、どんな営業でも会社の代表として接しますからね。将来は経営者や管理者になりたい人であれば、そういう意識は不可欠です。逆に会社員が嫌で、将来フリーランスになりたい人にも経験が役立ちます。
高城 経営者であれば、誰もが普通に営業をしているのに、サラリーマンの営業職になると、とたんに営業ができなくなる。「ボクやりたくないです」なんて言い出す。これはおかしな話ですよね。お客さんから「君の会社の方針は?」と質問されたら、堂々と「我が社では…」と答えてほしい。そうすれば、会社のことに関心が持てるようになるし、知識が身につければ、相手が社長だろうがなんだろうが自信を持って応対できる。
大関 やらされ感では営業はできないですし、そんな営業に当たったお客さんもたまったものではない。
高城 意識や視点が変わると、お客さんに断られたときにも落ち込まずに済みます。「僕がこんなに一生懸命話しているのに、聞いてくれないお客さんって、逆にかわいそうだよなあ。いいですよ、今日は帰りますけど。でも残念だなあ」なんて(笑)。当事者意識を持って、いかに営業を楽しくやっていくかは、自分なりの工夫が必要です。
営業をやらずにキャリアを重ねるのは危険
大関 若い人たちが営業で悩むことのひとつに、自社の商品やサービスよりも他社のものの方が優れていたらどうするのか、ということがあるようです。自社の売上を優先するのか、それとも「お客さまのため」を優先するのか。
高城 僕は営業が「お客さまのため」というのは詭弁だと思いますね。営業は「自分のために売る」のが基本であり、仕事の本質です。ただ、自分のためということを考えると、「このお客さんとずーっとお仕事ができればいいな」ということがあるわけです。長く付き合うためには、どれを売ればいいのか。一時的な売り上げのために、つまらないものを騙して売っていいのか。答えは自ずと出てくることだと思います。
大関 お客さんとの関係を長く続けていくためには、時には他社の商品やサービスの情報も提供し、「そちらも検討されるといいですよ」ということもあるでしょうね。その上で、メンテナンスの関係などで「まとめてお宅と取引するよ」ということもありうる。
高城 あと、営業で気をつけなければならないのは、「不満」を提供しないこと。レストランで言えば、美味しいことは大事だけれど、それよりもマズイものを出しては決してダメ。いろいろとよいことを積み重ねてきても、決定的な不満をひとつ提供することで、すべてを台無しにすることがあります。
大関 若い営業の人たちは「年上の人たちは、身だしなみや話し方、マナーにうるさすぎる」と感じるようですが、そういうことなんですよね。営業の本質ではないかもしれないけれど、大切な十分条件であると。価格や仕様で切れるセールスは、ネットに置き換えられる部分が増える可能性がありますが、人でなければできない営業のニーズは、よりいっそう高くなるでしょうね。
高城 日本国内には、約500万人もの営業がいるそうですが、その半分はノルマや競争の激しさを理由に「続けたくない」と感じているといいます(産能大調査)。でも、残り半分は営業に魅力を感じている人たち。営業をやらないままキャリアを重ねるのは非常に危険です。医者や弁護士でも営業力が問われる時代です。ぜひ若いうちに進んで営業を経験してほしいと思います。