先日の女子会でのこと。フリーランス仲間でカメラマンのM子(27)が、取引先のグチを言い始めた。仕事を終えたM子が、編集者の40代Bさんに「今後ともよろしくお願いします」とお礼のメールをしたところ、こんな返信がきたという。
「今回はお疲れさま。プライベートで合コンしてくれたら、今後の発注も検討します。20代後半~30代前半で、そこそこ美人、胸が大きくてメリハリボディな女性希望」
仕事ぶりを絶賛してくれていたと思っていたのに
M子が担当したのは、見開き10ページほどの著名人インタビュー。BさんはM子の仕事ぶりを「まだ若いのに、きちんと仕事するね」と絶賛してくれていたという。
「M子ちゃんはキビキビ動いてくれるし、いいカメラマンだねえ。被写体をのせるもうまいし、ムードメーカーとしても素晴らしいよ」
現場の翌日、Bさんからそんな電話をもらって喜んでいたところ、「そうだ、こんど打ち上げしない? Mちゃんの友だちも3人くらい呼んでさ。今回頑張ってくれたから」と手配を頼まれてしまった。
ただ、店の予約はBさんがすべてやってくれたし、お金も全部Bさんなど「大人の人たち」が出してくれた。予約が取れないことで有名なフレンチで、豪華なフルコース。有名パティシエが作る人気スイーツの手土産がついた。
帰りは各線の最寄り駅までタクシーで送ってくれた。至れり尽くせりというか、なんともバブリーな「合コン」になってしまったが、打ち上げ名目で丸め込まれて、そんな会を開かされてしまったM子は、心から楽しむことができなかったらしい。
そんな経緯もあって、納品後の「メリハリボディな女性希望」メールがM子の怒りに火をつけてしまったようだ。
「結局、仕事じゃなくて、周りの女友だちが目当てなんじゃないの? こっちは真剣に仕事してるのに。男の子だったら、こんな頼まれ方しないと思う。もうあそこの仕事は受けない!」
ところが、M子の話に聞き入っていた後輩の女の子たちの反応は違っていた。
「えー、もったいなーい。あたしもゴージャスなフレンチ食べたーい!」
「有名パティシエのスイーツ欲しいなあ…」
「アタシもそんな仕事もらいたいですー」
後輩たちの反応に「もう一回、してみようか」
「こんなことなら打ち上げなんていらない」とまで言うM子の前で、みんなこぞって手をあげ始めた。仕事のことはそっちのけで、すっかりレストランや手土産、タクシーに引き寄せられてしまったようだ。
予想外の反応にM子は顔をしかめていたが、しばらくして大笑いしはじめた。
「私がこの子たちに社会勉強させてあげるのも悪くないわよね。うん、分かった。もう一回、合コンしてみようか。若いっていいわよねえ。プライドとか考えずに、そうやってシンプルに話に乗れるんだから」
M子も、まだまだ若いと思うのだが…。後輩たちは20代半ばだし、「メリハリボディ」ばかりではないが、そのくらいは許してくれるだろう。
仕事を真剣にやっていれば、成果で評価されるときがきっとくる。おじさんたちだって、本当は仕事を認めてくれていて、ノリで楽しんでいるだけかもしれない。いま大事なのは、次の仕事をもらって業界で生き抜いていくことだ。(池田園子)