「就業環境」や「処遇」にも問題があるのではないか
「動機」「機会」「正当化」――。以前解説した「不正のトライアングル」という3つの心理的要素から、再発防止策を考えてみよう。
まずは、現金管理の厳正化による「機会」の低減が待ったなしだ。受給者毎の支給データベースを整備する。現金授受の事務は極力減らす。例外運用は原則禁止する。現金処理は1人に任せない。管理者が毎日必ず入出金明細をチェックする。これら極めて基本的な内部統制手続きを整備・運用するのが第一だ。
同時に、Aがなぜこのような犯行に及んだのかを究明して、ケースワーカーの就業環境や処遇に改善すべき点はないか、公金を取り扱う者としてのコンプライアンス意識や倫理観をどう高めるかなど、横領の「動機」と「正当化」を誘発する要因をなくしていく努力を継続していくことも必要である。
社会保障と税の一体改革と称して、消費税引上げが強行されたが、生活保護費や年金の支給管理がこの体たらくでは、穴のあいたタンクに国民の血税を注ぎ込むようなものではないか。党利党略に明け暮れる国会議員の大幅削減も含めて、2014年4月の消費税引上げまでに是正すべきことが山ほどある。
年金、生活保護費を扱う全ての組織が、この事件を我が事としてとらえ、不正受給の撲滅はもちろん、職員による着服防止にも徹底的に取り組まなければならない。(甘粕潔)