東京新聞が企業の労使協定を調査したところ、NTT東日本では月当たりの残業時間の上限を「258時間」と締結していることが分かったという。次に長かったのは、大日本印刷市ヶ谷事業部の200時間だった。2012年8月8日付け紙面で報じられた。
2000年以降に社員の「過労死」や「過労自殺」が認定された企業のうち、同紙が把握できた111社から回答を得た。このうち上限を80時間以上で定めていた会社は54社と、約半数にのぼっていたという。
1日20時間勤務が続けられるとは思えないが
労働基準法は労使協定の締結を前提に、月45時間までの残業を認めている。また、特別の事情があれば、1年のうち6か月間は上限を延長でき、時間数の制限はない。
ただし、厚生労働省の「脳・心臓疾患の労災認定基準」(過労死基準)では、
「発症の1か月前に100時間または2~6か月前に80時間を超える残業が認められる場合は、業務と(脳・心臓疾患)発症との関連性が強いと評価できる」
としている。
今回報じられた「258時間」はあくまで上限ではあるが、過労死基準の2倍から3倍にものぼる。もし目いっぱい残業を行った場合、どのような働き方になるのだろうか。
月の労働日数を21日とすると、1日当たりの平均残業時間は12.3時間。8時間の就業時間と合計すると、20時間を超える勤務が毎日続くことになる。睡眠はもちろん、食事や休憩の時間もほとんど取ることができない。
月に4日、12時間ずつ休日出勤をしたとしても、平日は1日平均10時間の残業が続く。心身がよほど強い人でないと、連日の18時間勤務には耐えられそうにない。このような勤務を前提とした協定などありうるのだろうか。
NTT東日本に取材したところ、週の残業の上限を臨時的に「週60時間」と設定している職場がごく一部にあるが、「月258時間」という協定はなく、実態からもかけ離れていると当惑している。
「東京本社の上限は月150時間で締結しており、『週60時間』の職場もその範囲内で収まるように運用している。決算や突発的なトラブル対応以外で上限に近づくことはなく、平均残業時間も大幅にこれを下回っている。『258時間』という端数のある数字が、どう出てきたのか分からない」
労組がある会社の方が「上限」が長いナゾ
試しに「週60時間」に52週をかけて、12か月で割ると260時間となり、258時間に近くなる。いずれにしても、実態は計算上の数字とは異なっているようだ。
「上限200時間」の大日本印刷にも取材したところ、この上限は「役員運転手」を対象とした特別な協定であり、一般従業員に適用されるものではないという。
「役員運転手は、拘束時間は長いのですが、待機時間も長く、過労死が発生したということもありません。2012年4月には労使協定を改定し、月80時間にまで上限を引き下げています」
少なくともこの2社については、食事の時間もないほどの激務が連日続くという実態はないようである。ただ、ネット上には「労使協定も結ばずに残業させる会社は山ほどある」「残業すれば残業代が出る大手は恵まれている」など、中小零細企業で働く人たちの恨み節も見られる。
また、労働組合がある会社の月上限平均(約93時間)の方が、労組がない会社の平均(約64時間)より長いことを指して、「社員を守らない御用組合は役に立たない」といった批判の声もあった。