ネットを使った企業のキャンペーンに「おもしろおかしい系」が目立つようになってきた。目的は「周知」なので、アクセス数の多さを示す「ページビュー(PV)数」が成果指標になることが多い。
PV数を増やすには、人が集まるポータルサイトに広告を出す方法もあるが、ツイッターやフェイスブックなどのSNSを通じて「拡散」「共有」されるコンテンツを作ることで、無名企業でもPVを獲得できるケースが見られるようになってきた。
サイト開設10日足らずで60万PV、会員も1割増えた
「おもしろおかしい系」の流れを先導しているのが、バーグハンバーグバーグが手がけるキャンペーンサイトだ。これまで有限会社ノオトの「上司に味噌を塗りたくらない人材」などを担当し、いずれも大きな話題となった。
今年7月には、不動産投資マッチングサイト「楽待(らくまち)」のキャンペーンを担当している。やはりこのサイトもネット上で大きな話題となり、一時はアクセスが集中してサイトが閲覧できない状態になっていた。
「貧乏人は見るな!」と題されたサイトを訪問すると、「あなたの年収は1000万円以上ですか?」という質問が現れる。「1000万円未満です」をクリックすると、
「さっさと閉じるをクリックしろよな…」
「こっちは忙しいんだからさ…。さっさと帰ってクソでもしてくださいよ?」
「あなたには一切関係ないことですが、国内最大の不動産投資サイトです」
といった、閲覧者を侮蔑するようなコンテンツに誘導されてしまう。
一方、「1000万円以上です」を選ぶと、手もみをした男性営業マンが「財を持つあなたにぴったり」というキャッチとともに現れ、「お客様のような素晴らしい方限定ですぅ~!」「今後はご主人様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」と手のひらを返した対応をする。
「楽待」を運営するファーストロジックの坂口直大社長によると、キャンペーンサイトへのPVは開設10日足らずで60万、訪問者(ユニークユーザー)数は20万を突破したという。登録会員数も10%増えた。その効果は「数年前に弊社がテレビ東京系の番組で取り上げられたときの10倍以上」という。
社長「提案を一切訂正せずにリリース」
このサイトへのフェイスブック「いいね!」は1000を超え、ツイッター投稿も700近くにのぼる(2012年8月6日現在)。ソーシャルメディア上で情報共有が広がり、アクセスを誘導したと見られる。やはり口コミねらいには、ジョークが強い。
ジョーク仕立てにする事前の不安はあったが、ターゲットとなる30~50代のユーザーに訴求するには、この方法が一番よいと最終的に判断した。とはいえ、やはり問題も起こったようだ。
「『年収1000万円以下の人を蔑むようなことはやめろ』というお叱りを3件いただきました。お客さまには、あくまでもキャンペーンのためのジョークサイトであり、会社としてお客さまを年収で差別はしていないと深くお詫び申し上げました」
ちなみに坂口氏は、自身もサラリーマン時代からこれまで年収1000万円を超えたことがないことをブログで明かしている。
このようなサイトを立ち上げる際に、どういう点に注意すべきだろうか。坂口社長はブログに、重要なヒントとなる一文を書いている。
「こういったジョークページは振り切らないとつまらないものになってしまうので、今回はご提案いただいた企画を一切訂正しないでリリースしました」
企業ウェブキャンペーンといえば、デイリーポータルZの「ハトが選んだ生命保険に入る」(2009年7月)が有名だ。ライフネット生命の出口治明社長とともに真夏の河川敷でハトを呼び寄せ、豆を食べた皿に書かれた金額の保険に加入する企画だ。結局、ハトは「2000万円」の皿を食べ、「ハトは賢い!」と感激する出口社長の好感度が急上昇した。
ネットユーザーの好むコンテンツは、必ずしも「誰もが嫌わない内容」とは限らない。それでも部下の提案を信じてOKを出す社長の度量の広さが、この手の企画成功には欠かせないのだろう。(岡 徳之)