「いちいち電話してくるんじゃねぇ、バカヤロー!!」
「ひー!!」
督促のコールセンターで働き始めた新入社員の頃、電話に出るお客さまの口調の激しさに面食らいました。
私は高校が女子高で、大学は男子学生が少ない文学部。今まで自分の周りに大きな声をあげる人はほとんどいなかったので、「世の中にはこんなに怒鳴ったり罵ったりする人がいるんだ」と、とても衝撃的でした。
「これが口癖なんだ」と思えば普通に話せる
でも、長く督促を続けているうちに気がついたことがあります。それは、中には全然悪意なく怒鳴ったり罵ったりするお客さまもいるということ。もはや怒鳴ることや罵ることが「口癖」になっている人がいるのです。
たまたま周りが「口が悪い人」ばかりだった、キツイ方言の地域だった…。そんな外的要因が加わって、日常会話的に「バカヤロー!」とか「ふざけんな、このヤロー」とかを語尾につける人がいます。
でもそういった方々は、特に悪意があって罵っているわけではなく、ただ単に「癖」で罵っているのです。こういう人は周囲から敬遠されがちですが、ちゃんと向き合ってみると意外といい人だったりします。
例えば、私の住んでいるアパートの大家さんはむちゃくちゃ口が悪いので、アパートの入居者とトラブルが絶えません。私の隣の部屋に越してきた人は2人連続、入居1カ月で引っ越してしまいました。
私も入居初日にあいさつに行ったら、開口一発「どうなってんだ、このヤロー!」と怒鳴られてびっくり。ただ、督促で怒鳴られることに慣れていた私は、ビビりつつも会話してみると、どうやら大家さんは特に意味もなく怒鳴っているようなのです。
「ああこの人…、これが口癖なんだ」
そう思ってしまえば、別に気にする事はありません。ちょっと変わった方言くらいの受け止め方でOKなのです。
合鍵を勝手に作った不動産屋を、大家さんが怒鳴ってくれた
お客さまの中には怒鳴るけど、ちゃんとお金を作って一生懸命支払いをしようと努力している、いいお客さまもたくさんいます。「口が悪いから悪い人」というわけではなく、口癖以外は普通の優しい人だったりするのです。
それにこういったお客さまは、他の担当者が敬遠していたりするので実は狙い目。積極的に電話をかければ競争せずに回収することができる、お得なお客さまなのです。
私のアパートの大家さんも口が悪いせいで入居者が長続きしないのか、アパートの賃料はどんどん値下がりし、おかげで私は相場よりかなり安い家賃で暮らすことができています。
また、入居したての頃、不動産屋に合い鍵を作られて部屋に入られてしまったことがあったのですが、その時、大家さんが不動産屋さんを叱りつけてくれて、迫力のある口癖も相まって、ものすごく頼りがいがありました。これが優しいだけの大家さんだったら、なあなあで済まされて「また入られるんじゃないか…」という不安が残ったかもしれません。
怒鳴る人、口が悪い人と出会うと「怖い!」「この人と話したくない!」と反射的に距離を取ってしまいがちですが、身構えず一歩踏み込んで話してみると、実はいい人だと気づくこともあります。
こういった事は、怒鳴られることの多い督促という仕事をしてなかったら、たぶん一生気がつきませんでした。ホントに督促っていろんな経験をさせてくれる、いい仕事だなぁ…、と改めて思います。(N本=えぬもと)